2010年05月01日

バナナお化け

 ユウちゃんは丸を描いた。
「これ何?」
「これは野菜」
 ユウちゃんは丸を描いた。丸の隣に丸を描き、丸の上に丸を描き、丸に重ねて丸を描いた。色んな形の色んな大きさの丸を次々と描くことで、白かった紙はだんだんと黒くなっていった。中心から離れて隅っこに、ユウちゃんは小さな丸を描いた。
「これ何?」
「小さい野菜!」ユウちゃんは笑って答えた。

 赤と青の色鉛筆を手にして、広告の裏の白いところに僕は木を描き始めた。木を描くことはそれほど難しくなかった。線を描けば木になった。線を足していけば、枝がどんどん増えていった。木はどんどん大きく成長したので、丸を描いて実をつけた。ユウちゃんもどんどんと実をつけた。実は赤になったり、青になったりした。
 動物を描くことは難しかった。何を描いても顔は鬼のようになってしまうし、足がうまく胴体と結びつかず、それぞれの動物の特徴を出すことができない。僕はやがて諦めて、むしろ架空の生物という設定で描くことに決めた。木の上に架空の生物の顔を描いた。顔を中心に描き、後に尾のようなものを足してそういう生物だということにした。
「これ何?」ユウちゃんが、興味深そうに訊いた。
「バナナお化け」そういうことにした。
「バナナお化け!」
 お化けと聞いてもユウちゃんは、泣かなかった。バナナお化けを認め、自分も新しいお化けを作るように色鉛筆を走らせた。丸の上に幾つもの丸が重ねられ、幾つもの線が赤と青で描かれた。
 突然、ユウちゃんは手を止めて、自分の色鉛筆を僕の手の中の色鉛筆に近づけてみせた。
「一緒だね!」新しい星を見つけたように言った。
「一緒だね」
 そして、僕らは残された数少ない余白を探して、架空の生物を描き始めた。

posted by 望光憂輔 at 15:53| Comment(0) | いとくるしい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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