2010年07月31日

餃子

 お祖母さんがこんなものがあったとお手玉を持ってきたけれど、ユウちゃんはそれは投げずに、餃子を作り始めるのだった。ピアノの上にお手玉を持っていってパンパンと叩くと、餃子ができあがり、ユウちゃんは僕たちのいるテーブルまで運んでくれる。

「はい、餃子ができました。食べてください」
 数秒で食べ終えると、またピアノの上に持って行き手早く餃子を作って戻ってくる。
「お茶入れます」
 接客中なので、ユウちゃんは敬語になる。
「餃子になります。お食べください」
「ありがとう。いただきます」
 食べ終えると、またピアノの上に戻って行きまたすぐに餃子を作って持ってくる。そんなことが何度も続き、まるで餃子の大食い大会をしているようだが、胃袋は満ちることなく、それはユウちゃんが飽きるまで続くのだった。

「はい、じいちゃんの好きな餃子です」
「ありがとう」
 と言って、じいちゃんも食べた。
 際限なく続くかと思われたそれは突如終わった。材料が尽きたのだろうか。

posted by 望光憂輔 at 13:24| いとくるしい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月30日

絆創膏

 お祖母さんがどこからかこれはいいと言って出してきたので、ユウちゃんはどんどんピンポン玉を投げた。ピンポン玉は部屋中を跳ね回って賑やかに音を立てた。それはユウちゃんの足元にもまとわりついて、とうとうユウちゃんは踏んでしまったのだった。

「血が出た?」みんなが駆け寄って心配した。
「出た」と言った。
 お祖母さんが絆創膏を持ってきた。
 僕はユウちゃんの足の裏を見たけれど、赤いものはどこにも見えなかった。

「絆創膏貼って!」

「ここ?」
 何もない場所に、僕は絆創膏を貼った。
 ユウちゃんは、安心してピンポン玉を投げ始めた。


posted by 望光憂輔 at 19:53| いとくるしい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月29日

みかんの皮

 ユウちゃんは投げることが好きだった。朝目覚めては投げ、夜眠る前には投げ、それ以外の時は、眠っていたり食べていたり歌っていたり、それ以外に思いついた遊びをしていた。何を投げていいのかわるいのか、どこに投げていいのかわるいのか、それはわかっているようなわかっていないようなところがあり、時々思わぬものが飛んでくることがあるのだった。
 みかんを食べるかと思えば、みかんの皮が飛んできたのだった。僕はそれを受け止めたり、かわしたりしていたが、その小さな欠片は連続して飛んできて、その防御はなかなか大変だった。ユウちゃんは、割と遠くまで飛ばすことはできたが、コントロールはまだまだだった。ついに手元が狂って、みかんの皮はタコお母さんの顔に命中してしまったのだ。

「痛い!」
 タコお母さんは、眼を押さえて下を向いた。
「ユウちゃん!」
 ユウちゃんは、投げることをやめて、空っぽになった両手を下げて立っていた。その姿は、ホームランを浴びてしまった時のピッチャーのようだった。何も言わず、ユウちゃんは審判の方を見つめて立っていた。
「痛いよ、ユウちゃん。こんな時は、何て言うの? ねえ、ユウちゃん、何て言うの?」
 けれども、ユウちゃんは何も言わず、当惑に縛られたように動かなかった。
「お母さん、教えたよね。こんな時は何て言わなくちゃいけない?」
 タコお母さんは、ずっと眼の辺りを押さえたまま、ユウちゃんに話し続けていた。本当に、相当に痛いのか、それともユウちゃんが口を開くまでの時間、痛い形を保ち続けているのかのどちらかだった。

「わざとじゃないのはわかるよ。わかるけど、当たったよね。わざとじゃなくても、お母さんに当たったよ。痛い、痛い。お母さん、痛かったよ。ユウちゃん、こういう時は、何て言うんだった? 言ってごらん」
 とうとうユウちゃんは、泣き出してしまった。
「ごめんなさい! お母さん、ごめんなさい!」
 泣きながら、お母さんにしがみついた。
「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫よ」
 タコお母さんは、ユウちゃんを抱きながら微笑んだ。

posted by 望光憂輔 at 12:56| いとくるしい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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