2010年07月28日

千里眼

「冷蔵庫!」
 ユウちゃんが叫ぶ。その指先を追ってみると遥か向こう、台所の冷蔵庫が僅かに開いているのがわかった。近くに転がっているボールを見逃すことはあったが、ずっと遠く離れているものを、ユウちゃんを見渡すことができた。誰もが見逃してしまう、僅かな隙間を、見つけ出すことができるのだった。
「まあ、すごい! よく見つけたね!」
 タコお母さんは、ユウちゃんが素晴らしい発見をするとちゃんと褒めてあげる。

「虫!」
 みんなでご飯を食べている時、突然ユウちゃんが宙を指して叫んだ。その一点がどこを見つめているのかわからず、みんなの視点はバラバラのところを彷徨って、再びユウちゃんの瞳に戻っては、再び散ってゆくのだった。窓の辺りかもしれないという意見が出て、みんなの視線が集中したが、そこに虫は見つからなかった。
「窓の外かねえ」お祖母さんが言った。けれども、ユウちゃんは豆腐を食べているのだった。
 虫は瞬間に消えてしまったのか。あるいは、大人の目には捕まえられない小さな発見だったのかもしれない。

posted by 望光憂輔 at 16:13| いとくるしい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月27日

永遠投手

 ユウちゃんは投げることが好きだった。基本となるのは勿論ボールだったけれど、とにかく投げることが好きだったので、投げるのに適当な物があれば何でもボールと同等の投げられる物になった。受け取ることは、まだ難しかったので一方的にユウちゃんが投げて、それを拾いに行くのはユウちゃんではなく、ほとんどの場合その辺にいる誰かなのだった。

「どこ行った?」
 テニスボールを投げた後で、ユウちゃんが訊いた。
「取ってきて」
 僕はユウちゃんの投げたボールを探し出して、ユウちゃんの近くに転がして渡す。するとユウちゃんはまた笑顔になって、勢いよくボールを遠くへ投げる。そうしてボールは行方不明になる。
「どこ行った?」
 投げては失うことを繰り返した。失うことも楽しみのひとつであるかのように、あえて遠くまで飛ばしているようでもあった。どこかへ消えていって、それが再び戻ってくると再び放り投げる。終わりのない遊び。
 ユウちゃんは、自分で探し出すよりも誰かに見つけてもらうことの方を好んだ。言ってみれば、ユウちゃんが人で僕が犬だった。けれども、犬であることはとても楽しかった。僕は忠実な犬となり、ボールを拾っては人の元へと届けることが好きだったし、人が笑顔でそれを待ってくれていることがうれしかったのだ。自分のすぐ傍にあるボールさえ、ユウちゃんは犬にお願いするのだ。

「取ってきて」

「どこ行った?」

posted by 望光憂輔 at 19:36| いとくるしい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月14日

海産物

 ユウちゃんは、海苔やもずくや魚をよく食べた。肉やプリンも食べたしほとんどのものは何でも食べたけれど、中でも海のものが大好きだった。ユウちゃんは、いくらでも口の中に入れた。時には食べきれないほど入れた。まだ、自分の食べる限界がどれくらいのところにあるのかよくわからないためだった。もぐもぐしていたけれど、とうとうどうにもならなくなって、ペッと出した。それからどうするかというと、再び食べ始めるのだった。そうして時には食べている間に、眠くなってしまうくらい時が経ってしまうことがあった。
「おいしい!」おいしい時は、声に出しておいしいと言った。
 朝起きたらユウちゃんは、瓶を開けて炒り子を食べていた。

「かたくない?」
「かたいよ。 ユウちゃん、よくかむよ」
 ユウちゃんは、僕にも勧めてきたけれど、僕はどちらかというと苦手だった。なのでいらないと言った。
「ひとつだけ食べる?」
 そう言われてひとつだけもらうことにした。やはりかたい。あまりおいしくない。けれども、とてもカルシウムが多そうだと思った。
「もうひとつ食べる?」
 そして、もうひとつもらって食べた。苦い……。けれども、ユウちゃんはとてもおいしそうに食べる。
 朝食の前、僕は5つくらいの炒り子をもらって食べた。

posted by 望光憂輔 at 15:36| いとくるしい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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