2010年08月10日

麺類を好む者たち

 太った父など想像できるものか。父は麺類を好んで食べた。遠い北国へ旅をした夜、誰もいない店に入り、カウンターで2人並んでラーメンを食べた。静かな夜だった。父は言葉を発しない。2人黙ってラーメンを食べた。誰も入ってはこなかった。食べ終わり、やはり静かなまま、父はお金を払った。
「雑巾みたいな味だったな」店を出てから、父が言った。僕も同じ意見だった。
 角の席に座り、僕はうどんが運ばれてくるのをひとり待っている。壁に架かった額が、今にも落ちてきそうだった。店の人がお子様椅子を運んできて、子供が座るのが見える。うどん屋には、家族連れが多く訪れる。うどんはみんなが好むからだ。僕の後ろは開かずの扉となっている。角の席は、窮屈だけど最も落ち着く。
 とんとんとん 誰かがノックしている。
 開かずの扉から選手が一人出てきた。コーナーキックを蹴るのだと言う。

posted by 望光憂輔 at 14:52| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

待合室

 こんな場所に何を待つために作られたのか誰もいない部屋。ここはバスだって来ないのに。
「ここは空いてますか?」
 老婆が入ってきて言った。どこもみな空いているのに。今日は暑いですねえ。塩分も取らないと。
「さあ、手を出して」
 僕の手に、さらさらとお菓子が注がれる。
「ありがとう」
 黄金色のお菓子が手の中に溢れる。溢れても溢れても注がれるので、地面に落ちてしまう。お婆さん、もう、いっぱいです。僕はもう一方の手を上げて、お婆さんに知らせる。ようやく、お婆さんは止まった。
「もう、いいのかね」
 手の中に溢れたお菓子は徐々に黒く縮小していく。そうではなく、手首を這って上がってくるのだ。蟻だ。ふーっ。僕は唇を近づけて、思い切り息を噴いた。

posted by 望光憂輔 at 14:32| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

射撃

「7時間待ちだって」
「この時間はどうしてもな」
 誰もが通る道を歩いていると、通行人の話し声が入ってくる。
 目のやり場にとても困る。どこに行っても人人人で、その度に僕はひとりなのだ。
「焼きたてのパンです」
 本日のパンは2割引です。店の前に少女はひとり立っていた。
「いらっしゃいませ! いかがですか?」
 空気に向かって、寂れた道に向かって、問いかけている。とても他人とは思えなかった。ふらふらと引き込まれてしまった。店の中には、誰もいない。
 誰もいないのは、嫌な奴が一人いるよりずっとましなんだよ。
 僕は命令通りに服を脱いだ。黒ずんでも大人の目に触れにくくするためだ。病室の中で誰も彼に歯向かえる者はいなかった。かっちゃんが、ライフルを構えて銃口を僕に向けている。真面目な顔をして。引き金が引かれて、僕はキュンとなる。ヨシヒコくんはうれしそうに笑う。「さっきはごめんね」洗面所で、かっちゃんは僕に謝る。真面目な顔をして。僕は少しもかっちゃんを責めたりしない。
「少しも責めないんだよ」
 けれども、クロワッサンは聴いていなかった。
「病室のベッドは畳だった。それをシーツでくるんであるんだ。枕は岩のように硬かった。玉子かけご飯とキャベツをよく食べたよ」
 食パンが歩いてきて、今度は話を聴いてくれた。
「今は、どうなっているかな? ベッドはどんなベッドかな?」
「潜入してみれば?」
「嫌だ。僕は忙しいんだ」
「知りたいんでしょう?」
「少し思っただけだよ。キミをいいと思うくらいに」
「私も忙しいのよ。ごめんね」
 そう言って、食パンは黙り込んでしまった。寂しい。ひとりでもふたりでも寂しいと思えば、百人の村人も友達も寂しい。トマトも野菜といえば野菜だし、パンも人といえば人になる。さよなら、キミ、キミはいなかった。すべては僕の作り出した幻だった。
「いらっしゃいませ! いかがですか?」
 少女はまだ、風に向かって話していた。

posted by 望光憂輔 at 00:36| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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