2010年08月17日

二流漫才師

「ちょっと通行止めになります」
 と看護師が言った。僕は無視した。
「自分で立てるようになろうね」付き添いのお婆さんの声が聞こえた。
「目を開けて○○さん。立つよ、○○さん」
「昼夜がすっかり逆転しているようね。開けられないのね」
 ○○さんも、大変だ。
 父はしっかり目を開けてテレビを見ている。見ていると思う。早口の漫才ばかりを見ている。父は何も笑わない。
 二流漫才師め!
 父の手がテレビの下の引き出しに伸びて、しきりに何かを探し始めた。けれども、何かは見つからないようだった。それからテレビを消したりつけたりを繰り返すようになった。何かしたいことがあるようだが、何だかさっぱりわからなかった。テレビをつけ、また引出しに手が伸びる。
「どうしたいの? お父さん。どうしたいの?」
 僕は立ち上がって、父の背に声をかけた。

posted by 望光憂輔 at 23:10| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

自分の居場所

 大助と花子の話をわかるとはとても思えなかった。それでも父はずっとテレビの画面を見続けている。離婚に関する相談話が持ち上がったが、僕にはどうでもいいことだった。父もきっとそう思いリモコンを手にするかと思えば、手にしたのは爪楊枝だった。口に持っていき、ずっと動かしている。僕はその様子をずっと眺めている。これがお見舞いというものだ。父と子はあまり話さないものなのだ。話などはせず、ただ互いに見ているだけなのだ。お父さん、僕は自分の居場所を見つけたよ。
 僕は遠慮なく鼻を啜ったり、耳掃除をしたりした。持ってきたゴミをベッドの横のゴミ箱に捨てたりした。父と子は話さないものだ。それでいい。

posted by 望光憂輔 at 10:15| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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