2010年08月18日

院内放送

 父は気を取り直して、チャンネルを変え始めた。そしてテレビは切れたりついたりする。院内放送をまだ諦めてはいないのかもしれない。強情な男だ。
安浦さん、ベースボール、ダンス、ビタミンE、OFF、ON、安浦、お化け、しゅうまい、OFF、ON、ベースボール、安浦、パールネックレス、一休さん、裸の大将、それからテレビカードを出した。テレビカードを抜いてもテレビはついていた。
「どうもわからんな」
 と父は言った。
「訊いてみる」と言って、ベッドの横に下がった呼び出しボタンの方に手を伸ばそうとするので、慌てて止めた。
「院内放送は今休みって言ったよ。看護師さんが」
「そうか」
 と父は言った。少しだけ笑っているように見えた。

posted by 望光憂輔 at 17:53| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

覚醒

 一番最初に病院の案内が出る、と父は言う。
 リモコンを手に父は、次々とチャンネルを変えた。出てくるのは人形、縫いぐるみ、安浦刑事ばかりだった。主電源を切ったり、何もない場所にスイッチを求めたり、機械に強かった父がテレビを相手に必死に戦っていた。うさぎや犬がサッカーを始めたところでチャンネルは止まった。
「13チャンネルで映る」と父は言った。
 僕はリモコンを奪い、すべてのチャンネルを当たっていたけれど、新しいチャンネルは何度やっても現れなかった。13チャンネルは、ただ青いだけだった。それ以降のチャンネルにしてみても、砂嵐だったし、入力切換を押してみてもやはりだめだった。
「ないよ」
 白い服の人がお茶を入れに入ってきたので、僕は訊いてみた。彼女はテレビカードを確認したり、チャンネルを変えたりしたがやはりそれは現れない。
「忙しいでしょうから、いいですよ」と父が言う。白い服の女は、まだ答えを見つけられずリモコンを握ったままだった。
「あなたは仕事中だから」
 割とはっきりした言葉で父が言う。
「看護師に訊いてみます」
 この人は、誰なのだろう? 
「すみません。お手数かけます」
 と父が言った。父は目標が定まれば、しっかりとする。そういう人だ。会話が成り立たなかったのは、父と子だからだ。父はしっかりしている。しばらくして、看護師がやってきて、チャンネルを青の13チャンネルに変えた。
「今は、院内放送がお休みのようです」
 看護師は言った。父は正しかった。病院の怠慢だ。父はしっかりしている。

posted by 望光憂輔 at 00:00| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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