2010年08月28日

異性園

 同性のものが近くに居ると気持ちがわかるようで苦しい。わかるようでわかられるようで苦しいから、まるでわからない異性のものがいる方がむしろ心地良いのだと思った。どうせわからないのだからと思えば、気楽でいい。共通点は少なくていい。互いに生き物同士であるというくらいでいい。あとはわけがわからないくらいがちょうどいい。
 ココアがやってくる。けれども、僕はしばらく何もしないのだ。知らん顔をして、日記をつけているのだ。関係ないですよ、キミが来ようとどうしようと。誰のココアですか、あなたのですか、あなたのですか。誰のものでもないのなら、最後は僕が接触を試みるのだろうけれど、それは今ではない。今でも良いし、今でなくても良い。だから、もう少し日記を書いておこう。一段落したら、その時に初めてそこに触れてもいい。どうせキミは逃げないのでしょう。僕が装い続ける無関心について、異性のものたちは当然のように無関心なのだった。
 みんなの知らないことを、こっそりと僕は知っている。ココアがやってきた時を、僕は知っている。みんなはきっと知らないでしょう。今、僕の右腕がほんのここまでしか上がらないということを。僕は待合室のたくさん並んだパイプ椅子の上で、たくさんの老いた両親たちに囲まれて、カーテンの向こう側でライオンのショーが始まるのを心待ちしながら、パンフレットを丸めていた。やがて、順位が上がって僕は招かれ、秘密の小部屋の内側で優しい人が、僕の肩に新しい暗号を送ると、彼女の鉛筆は僕の肉体のあらゆる文脈に触れもしなかったのに、僕は自分が良くなることを強く信じた。未だ僕の右腕は左腕の力なしに上がることはないけれど、大切なことは左腕の助けを借りれば上がるという事実だった。左腕は父の手だ。大きくて、力強くて、優しい手。そこにあると信じた。けれども、随分前から父はもう放していたのだ。幻の手。そこにあるという信頼が感触として残っているだけだった。遥か彼方で父の声がした。僕は、その時、もうひとりで自転車に乗っていたのだ。
 異性のものたちは、僕のことをまるでわかっていないし、僕もまた異性のものたちのことがわからない。
 知り得ないことがたくさんある。想像しても想像し切れないことがたくさんある。さあ、ココアを飲もう。

posted by 望光憂輔 at 17:50| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

かなしみはどこからやってくるのだろう。



posted by 望光憂輔 at 17:06| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

 列車の窓から、工場地帯が夜景となって映るのを眺めていた。けれども、トンネルに入ると窓には僕がひとりとなった。広島駅まで、僕の隣は空いたままだった。缶チューハイを飲んで、チーズ鱈を食べた。

posted by 望光憂輔 at 16:50| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

 1階で降りて、知らない人について歩いていった。点滴を抱えながら歩く人とすれ違う。どんどん知らないところへ行くようで怖かった。ようやく見覚えのある受付のところが見えた。シャッターはもう閉まっていた。僕は一度間違えて、反対側の方へ出てしまった。車ばかりがある。逆戻りして、訪れた時の自動ドアから出た。あんなに晴れていたのに、外は容赦のない雨だった。僕は背中のリュックを下ろして折り畳み傘を取り出した。大通りに出て、人がいないところまでくるとわっと泣けてきた。傘を深く被って隠れながら歩いた。30分あれば駅にたどり着けるだろう。

posted by 望光憂輔 at 00:35| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

長い間

これほど長い間父と一緒にいたのはいつ以来だろう。
これほど長い間父を眺めていたことはなかった。
父の唇は、長い年月を経て動いた一つの岩だった。
僕はあの顔を忘れることはないだろう。

posted by 望光憂輔 at 00:02| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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