2010年08月30日

イビキ時々唸り声

 坊主にした父を眺めていた。おじいちゃんに似ている。
 痰を取るために看護師さんがやって来た。うまく口が開かない。

「わーっ……、いたい!」
「じゃあ口を開けて!  はい。たくさん取りました」
 父はうれしそうに笑った。ほんの微かだけど、笑ったように見えたのだった。
 お父さん、今日は晴れだよ。
 父の両手は胸にあり、口はずっと開いたままだ。体には、赤、黄、緑のコードがくっついている。父は、科学の実験をしているのだ。夢を見ながら。どこまでも研究熱心な父だ。
 ちゃんとした最後の会話は何だったろうか。松山千春か?
 ここには母のベッドがなかった。粗末な椅子しかなかった。

posted by 望光憂輔 at 16:59| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キャラメル

 引越しがあったとは聞いていたけど、そこはもう部屋のようでもなかった。通路の途中にベッドが並んであって、その合間合間をカーテンで区切ってあるような場所だった。落ち着かない場所に、小さくなった父は追いやられていた。サイドベッドもなく収納箱を兼ねた粗末な椅子だけがあった。随分離れた場所にテレビがあった。
 鞄の中からキャラメルを取り出して母に預けた。母は、小豆味を取り出して、包装を解いた。

「食べる? お父さん」
 一粒を父の口元に近づけるが、父は眠ったままだった。もうキャラメルなど食べるような父ではなくなっていたのだ。テレビなんかもう見ないのだ。そう思って急に気が抜けてしまった。ミルクキャラメルと抹茶キャラメルの箱をテーブルの上に置いた。
 イビキばかりが聞こえてきた。

「私昨日誕生日だったよ。お父さん。 誕生日だったよ。 ひとりだったよ」
 母が父の横で小さくなって語りかけた。

「帰るよお父さん。ねえ、お父さん、帰るよ」
 母が今日のさよならを告げている。

イビキ----、イビキ----


posted by 望光憂輔 at 00:03| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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