2010年09月18日

10人のお婆さん

 母が戻ってきた。
 たくさん人が入っていたと言う。
「みんなお婆さん」
 母が言った。

「寝てればいい」
 母は言うが、昼寝の時間は終わりだった。
 小さな頃は、母のポケットの中で生きていることができたし、世界で最も落ち着く場所だったけれど、大きくなった今ではずっと隣に座っていることさえできなくなっているのだった。自分の大きさと母の小ささに戸惑いすぐに耐えられなくなるからだった。
 僕は図書館へ出かけることにした。

posted by 望光憂輔 at 18:12| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

宇宙人間

 父は、薄目を開けてじっと見つめている。何か言いたいのだろうか。伝えたいのに伝えられないとしたら寂しい。聴けないことも寂しいが
伝えられないのも寂しいだろうな。宇宙人だったら目と目で会話ができるかもしれないのに、人間は無力だ。
 母は銭湯に出かけて行った。

「向きを変えます」
 看護師さんが、向きを変えてくれる。
 それ以来、父はあっちを向いてしまった。
 日本人らしく靴を脱ごう。隣のベッドで昼寝をしよう。ベッドはいいものだ。脚を伸ばして眠ることができる。
 父の言葉を期待しないようになってから、拠り所は目の方へ移っていった。目を開く瞬間のことを、大きく受け止めるようになっていた。


posted by 望光憂輔 at 17:14| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなのさんま

 扉を開けると、人々が一斉に振り向いた。 L字型のカウンターは人でいっぱいだった。
「いっぱいかー」
 誰一人として何かを食べている者はいなかった。みんな料理が来るのを待っているのだ。僕は扉を閉めた。
 店の外では、腰を屈めマスクをした老婆が道草を食っていた。
「空いてるやろ。入ればいいだろう」
 老婆は言った。
「他にありますか? この辺りに」
 母が尋ねた。
「他はない」
 老婆は言った。
 僕たちは、夏至の夜に行ったもう一方の定食屋に行って、さんま定食を食べた。店では、ほとんどの者がさんまを食べるのだ。けれども、時々はチキンカツを食べたり、餃子を食べたりする者もあった。

posted by 望光憂輔 at 16:01| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。