2010年10月04日

ローカル線

 駅前にあるセブンイレブンに立ち寄り、どうせないかもしれないけれどこの辺りの喫茶店について訊いてみた。おばさまは、少し物思いにふけるように左手で右の手首を掴んでいた。それから店の外に出て、喫茶店についての話を始めた。美容院の隣にね、喫茶店があるのだけれど、今日は休みかしら。ホテルの横にね、そこは食事なんかはできないんだけれど、お茶くらいだったら飲めると思う。左に曲がってしばらく行くとね、酒屋があってね、その隣は喫茶店よ、と言って色々と喫茶店について教えてくれたので、泣きそうになった。
 一つ目の案は休みとして、二つ目のホテルを少し通り過ぎ酒屋というのを確かめようと歩き始めると、思うよりも距離を感じて結局二つ目の案に戻ることにした。ここはホテルですかと訊くと従業員は、ここはホテルではないと言いホテルの方を案内しかけたが、僕はホテルに用はないと断ってその場所に落ち着いてアイスコーヒーを頼んだ。薄暗いバーのような店内で四人掛けのテーブルに座り、アイスコーヒーを待った。丁寧な接客でアイスコーヒーがやってきた。その気品からして1000円を超えるアイスコーヒーではないかと訝りながら、立てかけてあったメニューに手を伸ばすと、アイスコーヒーはすこぶる良心的な値段のアイスコーヒーだった。杏は、夜になると居酒屋になる。そのような事情から昼でも薄暗いというわけで、それでもテーブルの中央に本を持ってきてみれば、その上から伸びている明かりによってなんとか本を読めなくもないのだった。踊子が壇上で光を浴びる時のようなものだ。そこまでして読む必要がある本が、今あるわけでもなく、僕は三行ほど読んですぐに本を閉じた。ここは昼よりも夜に来るべきところだという気がした。夜ならばこの明かりも明るく感じるのかもしれない。「知らない」で終わる話だったかもしれないのに、僕はおばさまの話に導かれてここに来たのだし、こんな小さな出会いにさえ何か意味が与えられているのかもしれないと思った。意味なんて別にいいのだけれど。コーヒーを飲み終えて薄暗い通路を通って、来た時と逆の出口へと歩いた。せせらぎの中で金魚が泳いでいる。

posted by 望光憂輔 at 02:23| はやかったね | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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