2010年10月08日

若いのにね

 窓の外、ブロック塀の上に緑の苔が生えその上を正体不明の昆虫がゆっくりと歩いてゆく。あれは何だろうか。バッタでもない、カマキリでもない、名前の出てこない奴だ。長い触角が大きく動くのが見える。遺体の向こうに、これほど遠く離れているというのに、はっきりと動くのがわかる。探っているのだ。あの長い触角で進路を決めるのだ。あの窓の外とブロック塀との間は何だったろうか。庭と言うには小さすぎるあの場所は、もう随分と長い間人の手が入らない場所に違いなく、昆虫の王国になっているのかもしれない。子供の頃、あの場所にお祖母さんが旗を出していた。祝日の朝などは旗を掲げるのだ。
「先生、はやかったですね」
 12月について言うように、誰かが言った。
「若いのにね」
 父の顔を見ながら、言った。新聞には、父の歳が五つも若く載っている。役場が歳を間違えたのだ。一つ間違えると、それが次のところにも伝わって、間違いが間違いを呼びどこまでも父は若くなってゆくのだ。

「どっちが先なんだ?」
 誰々が先だと誰かが言った。誰も文句は言わないと言った。何だか面倒臭い。
「玉串は時間がかかるぞ」
「一人一人やっていたら、時間ばっかりかかる」
「代表が出て、残りはその場ですればいい。移動するのが時間がかかるんだ」
「それも遠慮し合ったりしてね。先に、どうぞ、いえ、どうぞみたいにねえ……」
「座布団の数があったかな?」

posted by 望光憂輔 at 02:12| はやかったね | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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