2010年10月09日

下書き

 白い布団をかけ眠っている。汚れも染みもないきれいな布団だ。もうイビキもかかなければ、喉を苦しげに詰まらせることもない。どうしてなのか。僕は冷たい頬に耳を近づけてみるが、どうしてもそれは聞こえてこないのだった。きっと眠っているからに違いない。朝から次々と人が父の顔に手を合せにやってくる。
「穏やかな顔ですな」もう充分に苦しんだからね。
「太っていますね」不貞腐れているのかもしれないよ。
 父の傍にくっついている、僕の存在は特に目に入らないようだ。
 気にしないでください。ここに僕はいません。
「先生、はやかったですね」
 新幹線について話すように言う。

 兄がスピーチの下書きを持ってくる。
「母に代わって申し上げます……」
 挨拶から始まり、入院から今に至る経緯、町内会の方へのお願い、今後のこと母のこと。
 なんて完全な構成だろうか。僕が考えていたら、きっと無茶苦茶な挨拶文になっただろう。僕なんかに見せてくれて……。
 女がやってきて、父を布団ごと引きずっていく。

posted by 望光憂輔 at 20:15| はやかったね | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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