2010年10月13日

引きずり女

「移動します」
 結構重いですねと女は言った。僕と同じ53キロだ。
「棺に入るよ」
「冷たいね」
 母が言った。
 箱の中に名湯の素が注ぎ入れられ、良い香りが立ち上がる。あなたはあの有名なオクリビトという者ですかと町内会の人が訊ねる。
「あれは納棺師というもの。私たちは……」
 組んだ手がマネキンのようにつるつるとしている。足に足袋が履かされる。普段しない結び方をしますと女が言う。
「いいところに行きなさい」
 母が言った。
 箱の上にレースの覆い、布が被せられ中央にはそっと守り刀が置かれる。誰が来ても大丈夫。どんな魔の手が忍び寄ってきても、この刀が守ってくれるのだ。もう、この箱を出ることはなく、このまま運ばれて行く。どこへ行くのも、このまま。


posted by 望光憂輔 at 16:57| はやかったね | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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