2011年02月24日

コサルビトとルパン一味

「ルパン一味を作れ!」
 コーチの声で僕らは仲間を探してピッチを見回した。
「大人になったら、私も不二子ちゃんみたいになると思ってた」
 珍しい名前を持った女はそう言って笑った。
「いつみてもアルパカは草を食べていた」
 通行料も払わずに自由に通り抜けたアルパカの様子を女は語った。
 ルパンはいつでも宝石を盗んでいたけれど、僕が見ていたのはルパンの365日ではなく、いつも再放送の中のルパンの生活の一部に過ぎなかったのだと思う。
 コサルに集まってくる人たちは、いつみてもボールを蹴っている。だから、みんな子供のように見える。

「ルパン一味を作れ!」
 コサルビトは、3人の一味や4人の一味を作ってパスを回し始めた。

タグ:ルパン
posted by 望光憂輔 at 02:51| コサルビト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月23日

 白い紐に躓かないように、僕は慎重に階段を上がったけれど、3階のドアが開いているのが目に入った瞬間躓いてしまう。あっ。録音中のテープが止まってしまったね。おじさんも目を覚ましてしまって、事態は深刻な局面を迎えたようだ。僕の足が、とても精密な機械を壊してしまった。これはいくらするの? おじさんは、怖い顔で500万だと言った。途方もなく高い巨木が、その瞬間僕の目の前に伸びていた。一生かけても登ることはできないだろう。それが僕の背負った罪に違いなかった。風がどこからともなく吹きつけて、枝が無数の悲鳴を上げているのが聞こえた。畳に肘をついて、おじさんは寝そべっていた。「さてと……」視線は、畳みの上の一点にただ留まっていた。けれども、ただそうしているだけで、畳の一点は熱を帯びやがて変色して煙を上げ始めたのだった。そして、灰色の煙はだんだんと僕を追いかけるように、迫ってきたけれど、僕は泣くことも逃げ出すこともできないのだった。
 指定された教室は、行ったことのない民家だった。もう先に何人かの子が来ていたけれど、僕はどこに座っていいかもわからずテーブルの角にぶら下がっていた。見たことのない先生がやってきて、みんなに牛乳と原稿用紙を配った。「今日のテーマは失敗ですよ」長い黒髪を後ろにかき上げながら、先生は言った。牛乳を飲む内に、他の者もバラバラに集まってきた。よく見る顔のようでもあったが、ただ似ているだけで違う顔のようでもあった。誰もみな大人しく、聞こえてくるのは鉛筆が取り出される音と、喉を牛乳が通る音だけだった。失敗……。漠然としたテーマが、遠くにある青空や紅葉のように寂しく思えた。僕は牛乳を一気に飲んで立ち上がった。瓶が透明になったから捨てに行くのだ。
 駅は、陽だまりの中だった。「まだ太陽は途中です」と見知らぬ少女は言った。僕は地図を持つように原稿用紙を持って壁に寄りかかっていた。杖をついたお婆さんが、ゆっくりと歩いてくるのが見えた。「お婆ちゃんが戻ってくると、ケンちゃんも戻ってくるのです」と少女は言った。そして、お婆さんの後ろから小さな男の子が駆けて来た。「ほら、ほら、危ない」けれども、男の子は緩まなかった。手には石ころを握り締めている。僕のすぐ傍までやってきて、僕を数秒見つめると、間違いに気がついたように、あるいは何かを発見したように、手にした石で壁を打ち始めた。かんかんと異常を知らせるような音がするがケンちゃんは、少しもうるさくないようだった。お婆さんは、まだゆっくりと近づいている。激しく打ちつける内に石は少しずつ欠けて、小さくなり、その音も少しずつ変わっていった。音に吸い寄せられるように、お婆さんは近づいてくる。「テレビの真似をしてね……」説明を求められたように言った。石は研ぎ澄まされて、楽器から筆記用具へと今は変化した。「ケンちゃんは、芸術家です」と少女は言った。お婆さんの呼びかけに振り返ることもなく、真っ直ぐに前を向いて、男の子は壁画を描いていた。象のような、木のような、波のような、人のような、歌のような、何かが延々と描かれた。「何?」問いかけると、「何?」と笑って答えた。
 民家に戻ると先生は、みんなの原稿用紙を集めていた。僕はまだ名前だけしか書いてなかったけれど、構わずその中へ滑り込ませてしまった。どうせ、なかったことになるのだから、消えてしまうのだから。「のぞむくん、後はお願いしますね」みんなの作品をまとめて文集にするようにと先生は言った。笑っているのに眼の奥では尖った石が踊っているのが見えた。抱え切れない課題が、僕の手の中に押し付けられ溢れ出し、今にもバラバラになりそうだった。まとめ切れない失敗の束を抱えて、どこへ進めばいいのか、また戻ればいいのかわからなかった。「最後は、黒い紐を通さないと!」みんなが一斉に、何かを正そうとする声が僕を取り囲んでいた。

タグ:文集
posted by 望光憂輔 at 18:17| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月22日

ドルトムント(75)

 何かのファンファーレが鳴り始めたかと思ったらそれは雨だった。雨が降ると話には聞いていたけど、実際に降り出すまでは信じられない節があって、その節の正体を突き止めるために、僕はまたコサルの旅に出なければならないのだった。いつからそれは、存在していて、いつから身の回りを取り巻き始めたのだろうか。
 いつものように何気なく本を広げた。物理的な旅と心の旅とが融合して、自分がどこかへ運ばれていく感覚が好きだった。最初の駅では比較的空いていた車内も、次第に混雑してきて、徐々に騒がしくなっていく。前の座席の真ん中辺りに座っている女の人が、音を立てて大新聞を広げるとそれは座席の端っこまでも広がって、前の座席に座っている人はやむを得ず全員が同じ新聞に眼を通しているのだった。紙面の賑わいに惑わされた僕は文庫本を閉じると千里眼を使って、向こう側の隅々にまで眼を走らせた。

 ロンドン予選は、ドルトムント(75)香川抜きで戦って地球を守り抜くのだ。「反響が大きく驚いた」と海上保安官は7年間の長旅を終えた小惑星探査機「はやぶさ」を出迎えて、東北新幹線(21)が開通、「ロナウジーニョを見せられるだろう」前人未到の旅を終えて、警視庁などの事情聴取にやべっちは「地球イチバン」でNHK初司会を務めることがわかった。今後はA代表に専念させる世界中の科学者が中国漁船衝突の太陽系の誕生の秘密に迫るドライトマトで味を調えて、美輪明宏さんらとスタジオでトークを繰り広げる。ジェノベーゼ(39)が流行語大賞にランクイン、一瞬のスピードで相手を置き去りにしたJAXA教授は「胸がいっぱい」と大きな捜査関係者への取材で永井が2得点、海老トマトクリームは熱による素材の劣化を抑える製法を用いて巧みなトラップで得点ランキングトップに池上彰さん(21)教えて浮上。他人の新聞を読む内に、現在進行形のニュースをざっと理解することに成功した。小惑星探査機が旅をした時間と距離、持ち帰った砂粒と自分の存在を比較すると、僕はその場で気絶しそうになったが、九町目を告げる現実の声がどうにか僕の身体を前に押し出してくれた。

 黄色のビブスを手にした僕は鬼であり、ボールを回す人々を追い掛け回した。パスが通った瞬間に駆け寄ってもその場にもうボールはなかった。そして、また次の人のところへ駆け寄るとやはりそこにもボールはなかった。ホールは常に人から人へ動いている。同じリズムで同じ法則で、ボールは回っていた。鬼もまた同じように同じ流れに乗って心地良く、ボールを追うように動いていた。それではいつまで経っても、僕が鬼だった。早く人間になりたい……。そう思ってボールにくらいついていく。パスが出されるコースに必死で足を伸ばす。けれども、一瞬先にボールは通過してしまう。流れを変えなければならなかった。どうにしかして一定の流れを断ち切ってしまわなければ、永遠の鬼から抜け出すことができない。もたもたしている間に夢をのせた鳥は大気圏を越えて、気の遠くなるような距離を旅をしていた。一瞬立ち止まったり、前に行くと見せて後ろに戻ったり、突然に速く動いたり、あえて片方を切るような姿勢を見せながら、逆に飛び出したりあるいはそうみせかけてやはり動かなかったり、そのような頭を使った何か、工夫した運動が鬼には求められるのだったけれど、相変わらず僕は鬼として、ルールが微妙に変容し始めるその合図の笛が鳴るまでの間、僕は鬼であり続けたのだった。ようやく人間になった時、僕は何本かのパスをつなぐことができた。けれども、やがてミスをして、すぐに鬼に、何度も鬼に逆戻りしてしまった。

posted by 望光憂輔 at 16:20| コサルビト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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