2011年02月08日

非常階段

 雨は予想よりもうんと少なくて、190センチくらいは予想されていたけれど、実際のところ100センチだったり130センチだったりだった。それなら子供服でもいいねと言って、姉と2人で小学校の服を引っ張り出してきて出かけていったのだった。外は、雨が降っていた。青色の傘を2人で引っ張り合いながら、僕らは桜の横を通過した。桜の中に埋もれるようにして、大人たちは大地の雨を飲み合い、歌も歌っていた。「青を見ていると、黒に見えてくるのよ」と姉は、強固に主張を続けた。僕は、それは逆じゃないかなと反論を続けて、その内に信号が点滅しはじめて、駆け足になったため姉よりも多くの雨を僕は被ってしまった。
 テーブルのひとつひとつに、姉は感想を言った。これは学校の机みたいだとか、これはどこかから拾ってきたみたいだとか、これはなにやら純和風といった感じだとか、これはカビが生えているのではとか、これはこの場所には不釣合いだとか、店の人に聞こえるような遠慮ない声で言うのだった。「よくまあ、これほど不揃いな形を揃えたものね」それから実際に座ってみては、低いとか高いとか、こんなにがたつくのはおかしいと言った。実際に姉が揺らすため、テーブルの上の紙ナプキンの束が力士のように動いてしまい、危うく押し出されるところを辛くも留まった。まるで自由広場で遊ぶように、あるいは自分の家でくつろぐように姉は振舞った。閑散とした店が、姉を大胆にし、僕はそれにくるくるとついて回ったけれど、遠くで従業員の眼が青く光っているような気がして、少しだけ恐ろしかった。一通り批評を終えると、姉は仕方なしといった様子で、厨房に一番近いピンク色のテーブルに落ち着いて、私はミックスジュースねと言い残してすぐにまた立ち上がった。けれども、しばらく待っても店の人は来なかったし、姉も戻ってこなかった。広々とした6人掛けのテーブルの上に、そっと手を置くと象が目覚めたように揺れた。僕は姉の後を追って扉を開いた。
 うそのような青空が開けていた。僕は非常階段を螺旋となって降りていった。教室の扉を開けるともうみんなはいなくなった後だった。けれども、先ほどまでいたという形跡が、放置された教科書や、黒板に突き刺さったままのチョークや、脱ぎ捨てられた制服として残っていた。僕は再び扉を抜けて非常階段に戻った。けれども、姉を追いかけるべきかみんなを追いかけるべきか、難しい選択が残ってしまい、僕は答えを空中に留めたまま、少しだけ駆け足で階段を降りはじめたのだった。

タグ:力士
posted by 望光憂輔 at 03:01| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月04日

プラットホーム

 階段を駆け上がって渡りを走り階段を駆け下りて駅長室に飛び込んだ。「もうすぐ列車が来るんですよね。プラットホームが真っ暗です、駅長さん。電気のスイッチはどこにあるんです?」大きな犬を大地に沈める指揮者のように駅長は両手で空気を撫で付けて、僕を落ち着かせた。「すべての電気は自動制御されています。だから、大丈夫です。それにこれはここだけの話だけど、明日からは何もかもが新しくなるんだよ。世の中のシステムが完全に切り替わってしまうんだ。給料の高い人にはどんどんやめてもらうことになる。キミのお父さんにも、気の毒だけれどね……」再び僕は走り出していた。システムの過渡期だから一時的に点灯が遅れているとしたら、そのせいかもしれないと駅長は言う。走りながら、僕は僕の背中が不自然に軽すぎることに気がついた。どこかに鞄を置き忘れてしまったのだ。立ち止まって、最後に一緒にあった光景まで遡ろうとするが、高鳴る鼓動がそれを遮ってしまう。父が、持っているのかもしれない。硝子の向こうから、光が尖った鉛筆のように近づいてくるのが見えた。僕は、あの列車に乗ってゆくのだ。

タグ:駅長
posted by 望光憂輔 at 02:13| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月03日

ホームラン

 フェンスの向こうでピッチャーが投げる球を、僕は打ち返す。最初は空振りしたり、当てるだけで精一杯だったけれど、だんだんタイミングがつかめるようになってきて、僕は大の大人が投げる球を、どんどん遠くまで打ち返せるようになってきたのだ。快音と共にグラウンドを飛び出して町の家々の硝子を壊した。今では面白いように当たる、飛ぶ、そうだ片手でやってみよう、余所見をしながらやってみよう、歌いながら。僕は口笛を吹きながら、ホームランを連発した。鳩が寄ってくるように、フェンスを越えて、その時、ピッチャーがやってきたのだ。思っていたよりも、若く、大人といっても若者であって父よりも兄に近い、男は僕をはるか上から見下ろしながら、真剣な眼差しで勝負を迫った。勝負しろ!と男は叫んだ。突如として檻の中から飛び出してきた猛獣に怯えるように、僕は怯えた。けれども、それを悟られたくなく、本当は逃げ出したかったのに、代わりに侍のようにバットを天に突き刺していた。
 気がつくと僕は風呂で眠っていて、はっとして、風呂で眠ってはいけないと思った。それからはっとすると、今度は知らない部屋で眠っているのだった。隣の家の窓が近くて、僕はたまらずカーテンを引いた。けれども、それは短すぎて、窓全体を覆うことができなかった。

タグ:ホームラン
posted by 望光憂輔 at 02:04| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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