2011年02月10日

たまご

 台所が風邪をひいて咳き込んでいるので、僕は目蓋に熊を抱きながら、「うるさい!」と一喝したのだけれど、「あなた、それでも医者の卵なの? 何より大事なのは何だと思っているの?」と母に同時に2つの質問をぶつけられて混乱してしまったので、咄嗟に出てきたのはただ、「違うよ!」という言葉だけだった。「だったら何の卵なのよ!」という母の言葉は、もはや質問ではなくて、ただ僕を責め立てているに過ぎなかったし、適当な反論もなかった僕は、フライパンに卵を落とすとそれは見事に着地してきれいな輪になった。
 冷蔵庫の中は会議の真っ最中だった。「まずは、俺が先に出て行くよ! 何しろ本当なら昨日までの期限だったのだからね」とAさんが言えば、「それは納得がいないねえ! あんたは未開封だけど、私なんて1度外の空気に触れているのだから、より一層急がなければならないんだよ」とBさんが言う。「あなた方は、私の色が変わりつつあることに気がつかないのですか? 日付だとか数字などには関係なく、私の色を一目見ればその切迫の度合はわかると思います」とCさんが言えば、「ジャンケンだ! ジャンケンしようぜ!」とKさんが言ったが、「そんな決め方ならまるで意味がない」とRさんが冷たく言ったのだ。その時、「私は来週、舞台に上がるのよ!」という声がその場を瞬時に制圧して、それが最後の発言となった。それが今までよりも一段高いところからやってきた声であるとみんなが認め、それぞれが次に言葉をつなぐことを躊躇い、恥じ、恐れたようだった。冷蔵庫を覗き込む僕の肩をかすめて、その声のものは躍り出てきた。冷気を一身に集めたようなその迫力に押されて、僕は気を失ってしまった。香ばしさが僕の目を穏やかに開かせた時、熊が振るフライパンの上で豪快に米が舞っているのが見えた。

タグ:舞台
posted by 望光憂輔 at 01:53| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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