2011年03月02日

横並び

 朝と同時に何かが都合よくリセットされていればいい。ほとんどのことはそのまま取り消されることはなく、ただ不都合なところだけが部分的になかったことにされる。過去に遡って何もかも最初からやり直すことは面倒だけれど、ベースはそのままで部分的に塗り替えられているのならいいのではないか。例えば、あの白昼のジャンケンでグーを出したということにできないだろうか。些細なことで人生は変わってしまうけれど、些細なことによって世界が組み立てられているとしたら、その一つに安易に変更を加えてしまうことは恐ろしいことのようにも思える。僕の左手は、果たして僕だけの左手なのだろうか。

「今日はどこが悪くて来られましたか?」
 女はそう言って白い紙を押し付ける。説明を求めるスペースが一番上に充分な広さで与えられている。何かを書き出せば、言葉はうまくつながっていくはずだった。文章ならば、いつだって読んでいるのだから、人間よりも身近な存在なのだから。

白昼 左手首 衝撃 シュート 弾丸  パー 接触

 迷いながら書いた言葉はうまく結びつくことができず、単語として並んだだけだった。僕は自分のことを他人に伝えることが苦手だ。伝えることよりも伝えないことの方が得意だった。伝えないために書くことに何の意味があるというのだろうか。直接話した方が早い。僕には何もわからない。わかることなど何もない。だからこそ、ここに足を運んできたのです。
 下の方にはイラストの人体が表向きと裏向きで並んでおり、僕は表向きの人体の左手の先に適当なしるしをつけた。

 名前を呼ばれるのを待っている。
 このまま呼ばれなければいい。このまま日が暮れて夜になってしまえばいい。時間が切れて、また来年にしましょうとなればいい。今までの時間はなんだったんだ!となったらいい。意味もなく読書だけが進んでいった。

posted by 望光憂輔 at 13:00| 冬の包帯 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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