2011年03月09日

10番

「この度は大変なことでございました」
 大変なことに慣れているように女は言って、見舞金をくれると言った。
 生きていくのはそれでなくても大変だ。折れていても折れていなくても、だからこれはそう特別なことではないのだ。

「あっ! 人が入っている」
 ベッドで電気を受けながら電話の声を思い出しているとおばあさんが入ってきて、大層驚いた。驚いたのはおばあさんの方だった。
「聞き間違えか?」
 おばあさんは訊いた。誰も答えなかった。
「10番じゃなかったか? 聞き間違えか?」
「そこは9番ですよ」
 今度は誰かが答えた。あれれ、そうかとおばあさんは笑った。
 ここに来るのは、みなお年寄りばかりだ。けれども、間違えるのは歳のせいではない。カーテンで仕切られた部屋と部屋、ベッドとベッドの間はとても狭くその境界線はとても見えにくいものだった。だから僕でも間違えて隣の番号の部屋に入りそうになるのだ。

 カーテンを開けて外に出た。次の治療を待つためパイプ椅子に座った。隣に杖をついた見るからに十代の少女が座っていた。老人ばかりのはずだったのに、歳を取ったのは自分の方だった。瞬時にして雪が降り積もったように、僕は年老いてしまった。少女は僕の横顔越しに壁に貼られた12月のカレンダーを見つめていた。

posted by 望光憂輔 at 20:51| 冬の包帯 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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