2011年04月27日

人と雪

「どこまで行くの?」
 帽子とマフラーと手袋で全身を固めた姉たちは花を植えに行くと言った。すぐ窓硝子の向こう、小さな庭だった。
 雪が、ちらついていた。
「行ってらっしゃい」
 ずっと雪を見つめていた。このまま降り続ければ明日の朝には積もっているだろう。けれども、積もるにしてはうんとたくさん降らなければならない、小さな小さな雪だった。

「どうして来たの?」
 雪の一粒がかすれた声で訊いた。
「来たかったから来たよ」
「そう……」
 雪の一粒はそれだけ言って落ちていった。
「どうして来たの?」
 また別の一粒が訊いた。
「来たかったから来たよ」
「そう……」
 別の一粒は、先の一粒と同じように言って落ちていった。
「どうして来たの?」
「どうして来たの?」
 新しくやってくる粒たちが次々と訊いてくる。それはやむを得ないことだった。同じように受け止めてしまうのは僕の幻想に過ぎないのだから。
「後でまとめて答えるよ」
 あとでたくさん降り積もった時に……。

 植木鉢の中に石が流し込まれている。雪は早くも勢いを失っている。残り少ない雪なので、なるべく落ちないように、彼らは宙を何周も漂いながら舞っていた。冷たく固まった左手、包帯の先を右の手で確かめながら、僕は冬の世界の人と雪とを見守っていた。硝子の向こうで、ずっと遠くにいるように、小さくなった人の声が聞こえる。

 時々雪の一粒を見ていた。それからまた雪全体を見ていた。屋根の上の雪を、木々の向こうに流れる雪を、それから雪の一粒を見ていると見失ってしまった。遠足に行った人々が、白い息を吐きながら帰ってきた。
「寒いからあたたまるものがほしいな」
 コートにはりついている冬の匂いに近づくことが怖くて、僕はまっすぐ前を見ていた。帰ってきた人々と一緒に交じってあたたかいものを飲んだ。食器棚の硝子に映る雪と枯木を見ながら咳き込んだ。
 雪は夜を吸い込んで、やがて闇に隠れてしまった。スパークリングワインは冬の力で程よく冷えていたけれど、みんなでわけるとすぐに空いた。もう一本あってもよかった。なぜ買い忘れたのだろうか。今度は、ちゃんと買い物して遊びに来よう。


posted by 望光憂輔 at 02:22| 冬の包帯 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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