2011年05月19日

公園通り

 慌てていたのでリュックを置いてきてしまったけれど、僕は逃亡する小人を追いかけなければならなかったのだ。「待て!」すると急に小人は立ち止まり振り返った。「おまえ、Bの近くにいつもいる奴だな!」僕は小人に知られていることが突然気がかりになった。「言いつけてやるぞ! 待てなんて言いやがって」言いつけられることはいいとしても、いったい誰に言いつけるのかということが気になって、僕はゆっくりと歩調を落とし、ドリンクバーの中に落ち着いてしまったのだった。そこにあるのは、どれもこれも飲みかけのミニッツメイドでちゃんとラップがしてあった。僕はオレンジを選んで喉を潤した。
 暗い夜道に電車はなく、明日は大会なのでタクシーでも拾おうかな。どんどん暗い道を、僕は引き返している。三叉路にふらふらと迷い込んだような車が入ってきて、一瞬明るくなったが、またすぐに闇が戻る。季節を思い出すように、姿を見せない虫が鳴いているが、不意に人の気配。公園通りに警官は冗談を交わしながら大勢で歩いている。大げさな笑い声に割って入るようにワゴンがやってきて、中から今度は私服警官とゴマを全身につけた力士風の男たちが降りてきた。恐ろしい肉弾戦が始まった。「ちょっと見ていってよ」と制服警官が言った。本当は恐ろしいことが行われているのに、ギャラリーを傍につけることによって、何か楽しい祭りのような風に見せかけようとしているのだった。僕は言われる通りに足を止めた。ばちばちと肉体が当たる音がする。その度にゴマが弾けて、闇の中に光った。手錠もつけていない囚人たちが間近で暴れているのは恐ろしいけれど、世界一ということではないのだし、きっと大丈夫、私服警官だって強そうだ。

タグ:ラップ
posted by 望光憂輔 at 19:56| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月18日

ふわり

 口の中に冷たく入る雨。それが時にはあられに変わった。地上では母と小さな女の子が手をつないで信号を待っている。「あられだよ」おそらく声に出して未知との遭遇を祝っているのだ。少しだけ地上に下降すると、タクシーの運転手がフロント硝子越しに僕のことを好奇の眼で見上げ、少し心配そうにアクセルを緩めるのは、僕の身を案じるというよりも僕が落下することによる接触そのものを恐れているからなのだということが、僕にはわかる。ワイパーの起こす風に飛ばされるように、僕はまた舞い上がる。またどんどん高く上昇してしまう。僕はいつも高度をコントロールすることはできないのだった。高ければいいということも、安全だということもないし、逆に危険だというほどでもない。ただ、地上から、人々から遠くなっていけば、それだけ人目につきにくくなるということはあった。冷たい雨のせいか、なんだか街が透明なアイスのように見える。上昇が止まらない。あまりにも高く遠く地上から離れてしまえば、越えられないものを越えてすべてが過去のことになってしまうような妄想に捉えられ、その時僕を包んでいるものは風だけなのだった。川に近づく。川沿いを歩くのはサンチュだった。眉の形が見えるほど、僕はまた下降している。「飛んでるで。あの人」と失笑を誘い、僕はまた上昇して、川の周辺を旋回した。「おいおい、飛んでるで。大丈夫かいな?」サンチュの後ろに歩いてくる見覚えのあるシルエットは、Kおじさんだ。僕は遠くから飛びながら頭を下げたが、勿論Kおじさんにはわかっているのだと思う。川沿いに短い下降、のち長い上昇が始まる。近づいた瞬間、まだサンチュが笑っているのがわかった。後ろを振り返るとサンチュもKおじさんに気がついたようだ。「なんや、知り合いかいな!」そんなことを言っているのだ。「あの子は、いつも遅れてくるのです」そんなことを言っているのだ。地上には奇妙な偶然がいくらでも落ちているけれど、それを見つけるのは飛んでいる間なのかもしれない。僕は疲れてはいなかった。けれども、もう夜だった。


タグ:タクシー
posted by 望光憂輔 at 01:59| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月17日

風化

 降りそうで降らないような、それは持ってこいの天気。恐らくは降らないだろうけれど、人を躊躇わせるにはちょうどいい雲の集まり。降ってしまっても、別に構わないのだった。ずっと降り続いているのでなく、ある時ついに降りだしてしまうなら、それは構わない。もしも、それが終わりの10分くらいだったら、もうそれは、そんな別れの雨ならば歓迎の雨でさえあるのだ。けれども、雨は降らないだろう。何かが僕を呼んでいるような気がして僕は家を飛び出した。2番線に入ってきた電車に間に合ったおかげで、余裕のある時間に目的地にたどり着くことができた。階段を上るといつもの夜が顔を出し、空を見上げると、北の方から強い風が吹いた。僕を呼ぶのは風だけだった。

 風の中のピッチに生まれて、僕は3歳で最初のゴールを上げた。人生は上々だ。きっと、桜色の人生が、僕を待っている。けれども、その後特に良いことはなかった。走っても走っても、追いつけないボールがそこにあった。時にボールを持てば、すぐに失うことの繰り返しだった。守りに回る場面も多かった。長い辛抱の果てに、ようやく回ってきたボールを前に繰り出そうと前進を開始した、まさにその瞬間にボールは奪われてしまった。それでも、何度かチャンスは巡ってきた。けれども、僕のシュートは、3歳の時に放った鮮やかなシュートのように枠を捉えることができなかった。僅かに枠を逸れ、バーを叩き、あるいは力ない弾道で容易くキーパーの手の中に納まってしまった。仲間を助けようとパスを試みたけれど、それは味方の遥か前を先走るか、既に通り過ぎた無人のスペースへ出されたため、チャンスを潰すだけとなった。キープを試み、ドリブルのチャンスを窺いもしたが、接近する人のプレッシャーに勝てず、それは後ろ向きのドリブルとなったため、ゴールへとつながる可能性は皆無だった。気がつけば長い歳月が流れ、僕の頭はもう真っ白に染まっていた。いくらでも、取れると思われたゴールは、生まれて間もない頃に取った1点だけとなっていた。
 あれは本当に、僕のゴールだったのだろうか……。今ではもう夢の記憶のようにぼやけているのだった。

タグ:ドリブル
posted by 望光憂輔 at 14:09| コサルビト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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