2011年05月12日

明日にしよう

 束縛的だった時間が急にとけてしまって、みんなは口々にのど飴を入れて不安を発した。
「これからどうする?」
「後先を考えずにいきましょう」
 僕らは自分の庭を疎かにして、一斉に前を向いて走り出す。おぼつかない足取りなのは、架空の監督によって狭い世界の中に長時間閉じ込められていたせいだった。練り込まれた守備陣の前に、前進はいとも簡単に阻まれて即座に背走を余儀なくされてしまう。それでも急がなければならないのは生き物の宿命だった。
「明日にしよう」
 何もかも、あまりにうまくいかないのを見かねて、白衣の女が声を上げた。直ちに、みんなの足が止まって動かなくなった。左サイドから上がったクロスは、ファーサイドに浮かんだまま静止している。僕は左足でボレーシュートを狙った。けれども、左足は動かなかった。明日という言葉の響きが、時間を止めてしまったせいだ。自転車が後ろから近づいてくる。

「ゆっくりでいいよ」
 ずっと後ろから、母親が言った。
 男の子は少しよろめきながら、速度を落としながら自転車を走らせた。
「どうせ、信号、赤だからね」
 けれども、男の子は何も答えずに、母を置きこちらに近づいてくる。




ラベル:ボレー
posted by 望光憂輔 at 14:05| 冬の包帯 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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