2011年05月24日

おるおる

 幾つもの本を開きながら母は人の頭の上に並んで待っていた。順番が来て、ぴょんと降りるが左からやって来た人とぶつかっておかしなムードになってしまう。「あんたが悪いよ。普通こっちだろ。上に並ぶ人なんておらんよ」と男は一方的に責め立てたけれど、僕たちサーカス一座にとっては、まったくナンセンスな主張だった。「ここにおります」と母は言った。「おるおる」母の頭の上で、幾つもの本を開きながら、僕もありのままの現実を声に出した。「あんたらだけだぞ」と男は言ったけれど、サーカス一座のことをあまりに知らないので、おかしくて、かわいそうになる。「あれ? お父さんは?」と急に母は、思い出したように言った。「お父さんはライオンと一番風呂に行ったよ」知らない人の頭の上の高いところから姉の声がする。「あんた、何冊読んだ?」「僕はまだ、一冊」本当は、その一冊があまりに面白くて、もう一度読み返しているので、なかなか次に進まないのだった。「なんで読破って言うのかな?」姉は、集中していて答えてくれない。些細な取るに足らないような問いかけ、あるいは不都合な問いかけに対して取られる態度。「ねえねえ……」「知らない! 私、漢字には興味ないの」「ミートゥー!」母の足元で、猫も賛同の声を出した。

タグ:サーカス
posted by 望光憂輔 at 02:53| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

カバ

 眠くなったら音楽だよとサイドーカーに乗った父が言い、ラジオをつけると落語家はそばを食べている。「うまそうに食べるな」と麺好きの父。
 とてもおいしそうに見えるのは照明のせいもあるのだろうか。「私、この女の子と食材と両方持ち帰りたいわ」と笑いながら、サワさんはレシピ本を閉じた。
 焼き芋を1つくださいと言うけれど、「私はカバですよ」と冷たく断られてしまった後で、ひどい雨が降ってきて雨宿りをする。どれにしようかな。折り畳まれた傘、柄にシールの貼られたままの傘、透明なクローン傘……。廃墟の前には無数の傘が置き去りにされて、どれでもどうぞと直立している。どれにしようかな。その1つに手を伸ばしてみると、水が滴り落ちて驚く。今まで感じなかった人の気配が開いて眩しくなった。廃墟ではなく、ここは病院の前である。窓に明かり、この傘はきっと忘れられているのではない。まだ温かく、同じ持ち手を待っているのかもしれない。「焼き芋を1つください」僕は、引き返してもう一度同じように言った。「私はカバですよ」と彼も同じように言ったけれど、背中から煙が立ち上がっているのが見えるのだった。なんだ、やっぱり焼き芋屋さんだった。

タグ:焼き芋
posted by 望光憂輔 at 00:56| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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