2011年06月24日

ゲームセンター

 校舎の周りを回っている。遠心力をつけてゴールを狙うのだ。正面から警戒されている時、その時はゴールの後ろに回り込んで、突如としてゴール前に顔を出すのだ。雲の後ろに隠れながら、雨の代わりに円盤を投げ出す時のように。そうしてゴールを狙う。守りの人は、警戒して前ばかりでなく、だからゴール裏も警戒している。裏を取られたと悟った時は、ゴールを抱えて逃げ出したりするのだ。そうした駆け引きが幾つもあって、僕は校舎の周りを回る。合間に昼食を取る。僕がお弁当を置いて確保していた机のすぐ横で、女二人がお弁当を広げ始めていたが、元からその空間は僕も確保していたのだし、わざわざそこから離れる理由もないことから、僕はそこに身を置いてお弁当を食べることにしたのだ。女は、女同士で口数の少ない会話を交わし、僕は視線を低くしたままお弁当に対してだけ口を開き続けた。二本の箸が最後の隅々まで掃除を遂げた時、お弁当箱は空気のような存在となり、同時に女の会話がピタリと止んだ重みによって僕は押し出され、再び校舎の周りを回っているのだった。ゴールの裏から密かに近づこうとすると、守りの人は背中のシャツを風船のように膨らませて、逃げ出した。ゴールを追っている内に、女子寮の中に迷い込んだらしい。
 プレミアムカードをお持ちの方は全店10%オフというポスターが至るところに貼られているが、誰の姿も見えないのは間もなく消灯時間21時を迎えるからだ。階段を駆け上る。今通ったばかりのゲートが下りて、もう僕は後ろに戻れなくなる。明かりが、少しずつ消されてゆく。ポスターとタイルが艶を失って、落ちてゆく。戻りたい意思と反対に作られた道が、僕を侵入者に仕立て上げていく。熱風に持ち上げられて階段を上がる。ざわめきが、聞こえてくる。それは男たちのざわめきだ。自動ドアが開くとそこはゲームコーナーで、エンジン音の唸りが僕の鼓動を打ち消してくれる。「仕方のない生き物ね。男たちというのは」緩やかに滞在許可を出す女の声が窓から聞こえてきた。父がハンドルを握り、僕は助手席に座っている。ずっと三島由紀夫が流れていて、ずっと父は黙っていた。延々と湾曲した海沿いの道を、父の顔は、行き先と関係なく曲がってゆき、それに合わせて握力が失われてゆくようだった。「お父さん?」父は、どこも見ていなかった。蛇行。「お父さん?」僕は、ハンドルを支え、父の上からブレーキを踏んだ。「危なかったな」缶コーヒーを差し出しながら、助手席の男が言い、運転席にいるのは僕だった。父は、いない。「これだから田舎道は嫌なんだ」見知らぬ男は言った。後ろを見ずにドアを開けたものだから、ちょうどやってきたイルカとあと少しで接触するところだった。


posted by 望光憂輔 at 02:41| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月23日

侵入分類者

 誰かがやってきたのでみんなで化石になった。執拗なノックが止み、敵は去るものだと思っていると玄関の横から男は空色の道具箱を抱えて入ってきたのだ。どうして入った?と訊くと「こうすれば入れるでしょ」と僕よりも家の構造を、玄関口のからくりを知った男は平然と言った。110番に通報し、被害を訴えた。「いきなり入ってくるのは怖いでしょ」と言って訴えた。「怖いですね」と女は共感の態度を示し、けれどもその後に続く提案めいたものは何もなかった。そうしている間にも、侵入者は、部屋中のコンセントに謎の物体を手際よく装着する。「ねえ、怖いでしょ」訴えると女は「怖いですね」と園長先生のように親身になって共感の態度を示し、そして黙り込んだ。僕たちはみんなで座椅子に座って落ち着いた。
 時代掛かった座椅子にはそれぞれの背中に短刀が備わっていて、一大事となればいつでもそれらを抜く準備ができているのだった。無礼な侵入者は、家の箪笥の中を物色し、畳の上に用意した木箱に分類し、振り分けている。「これはいる物、これは大事な物、これはみんなの物、これはいつか使う物、これは思い出の物、これは個人的な物、これはどうしようもない物」そうして箪笥を開ける毎に、虫が飛び出し部屋を舞い、姉は殺虫剤を持ってきて散布するが、弟は「いい虫もいるよ!」と叫び女の前に立って邪魔をした。「何を分類している?」僕は短刀を抜き、男の背中を切りつけると急に部屋の中に雪が降り、妹は「雪だ雪だ」とはしゃいだ。「最後にはみんな捨てるさ」と男は弁解し、分類を続けた。

posted by 望光憂輔 at 01:24| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月22日

おめでとう

「流石だね」と友達が言う僕の机の上には筆箱などではなく醤油さしが一つ置いてある。前から順にテスト用紙が流れてくるのを受け取って僕は後ろに流す。「鉛筆一本貸して」鉛筆さえあれば、僕は答案を埋め尽くす自信があったのだ。さあ、始めてください。僕は早速、自分の名前と種々のプロフィールを書き込む。先生が回ってくると僕の机の上を覗き込むように見る。「その雑巾掛けは2級なの3級なの?」3級だったかなと曖昧な返事をすると、じゃあ3,4級ねと先生は決め、3,4級と書くように言うのだった。

 ねえねえ「意表をつかれたとしたら負けなんだよ」と猫が言ってボールを投げて、僕はそれを鉛筆の先で静止させる。強打、強打、ドロップショット。「それは予測していたさ」と猫はなかなか負けを認めない。勿論、僕も。ラリーは延々と続き、決着はつかない。ウルトラの親戚の人がやってくるよと姉が言う。「おめでとう」と声がして、人々が流れ込みいっぱいになるので、僕は家を明け渡して出て行かなければならなかった。道に出ても、ウルトラの親戚の人々が次々と「おめでとう」と口にしながら歩いてきた。「おめでたいのは息子さんなのよ」と誰かが言い、誰かが「まあ」と言った。僕の前に見知らぬ女が立ち止まり、「お誕生日おめでとう」と言った。僕が礼を言うと女はしみじみと頷き、顔から涙を流し始めた。ああ、息子さん。ウルトラの親戚の人々が僕を認めると近寄ってきて、「おめでとう」と言い、そっと肩に触れ、手を握り、爪先を見、頭の天辺を見て、涙を流した。

 友達は道端で座り込んでいた。「帰ろうよ」と言うと、えーっと驚きの声を上げる。「今? だって新喜劇やってる最中よ」口で銃声を作り、大げさに倒れ込む。そして起き上がったと思うと逆に撃ち返す。陽気なゾンビのようにピエロたちは不死身に夜を牛耳り、人々の地道な足取りを封鎖している。「帰ろうよ」もう一度、僕は言った。

 レストランに入ると向こうで彼女は「やあ」と手を上げた。僕が行くと彼女は椅子を差し出して向こうでどうぞと言った。「あなたとは他人でいたいの」僕は椅子を持って向こうに行き、即席の一人席を作り出して座った。「サーロインステーキ」ウェイターに告げた。続いてウェイターは4人掛けのテーブルにオーダーを取りに行った。「答案用紙はL・M・Sのサイズがございますが。はい。Mですね」そうして、帰り際に、僕の所に0.5秒だけ立ち寄ってステーキの焼き方を訊くのだった。「Mで」僕は、優しいわけではなかったけれど、答を合わせる。ぐるぐる巻きの女が疾風のように入ってきた。竜巻のように回っている。「私、ようやく見つけたわ。ようやく解き方を見つけたわ」そう言いながら回りながら、体中に巻きついた紐を解き落としていった。「ようやく、知恵の紐を解けたの」氷上の天使のように彼女はとめどなく回り、その体はとめどなく細くなっていく。「おめでとう!」誰かが言って、知恵の少女を拍手が包んだ。僕も、手を合わせながら遠くにいる彼女を見た。女はずっと下を向いたままだった。パスタを渦巻いたフォークが冷たく光っている。


posted by 望光憂輔 at 02:27| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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