2011年06月10日

降下した

 引き出しを開けておしっこしてしまった。ハンカチがたくさん入っているからそこですべきだと思ったけれど、済んだ後で本当はトイレでするのが本当だと思ったし、母もそうですという顔をしていたのだった。バカ殿さまを見ながら、パンツを履き替えていると兄が、島から親戚の人たちが来たぞというので、僕は地下鉄に乗って逃げた。
 森の駅で乗換えのために降りたホームで人々はどこにも歩き出さず困ったように停滞していた。さて、どこに行ったらいいでしょうというように女同士で相談している者もいた。乗換えのための案内も矢印もなくホームは腐った学園祭の準備のようだった。仕方なく僕は一つの階段を選んで降りてゆくことに決めたが、そこは薄暗く細い通路で、誰も入っていかないし、僕の後についてくる人もいなかったけれど、僕はゆくことに決めて降りて行った。崩れそうな細い階段を降りていくと扉があり、開くと鳥の悲鳴のような嫌な音がした。所々にトイレの表示があったけれど、実際にはそれはどこにも見当たらず、続けて階段を降りて行った。木の一本が折れた。そこから下に落ちることを思ったが、それは完全に折れたわけではなく途中で止まったので助かった。また扉を開けて、次の階段を降りた。降りながらぐるぐると回っている。ほのかに明滅しているような薄明かり。誰一人いない。細い階段を踏む苦しげな音だけがしている。また一つ、階段を降りて次の深さに達すると店らしきものが現れ、そこにはガムやタオルや鉛筆や虫篭や漫画のようなものが置いてあったけれど、人の姿は見えないのだった。「すみません。誰か」店の奥を覗き込んだ。誰もいない。喉を潤すようなものが置いてないのは、なぜか。その時、今降りてきた扉がひとりでに閉まった。駆け戻ろうとすると扉の前の階段が音もなく闇の中に吸い込まれてしまった。仕方なく下へ降りる。乗換えのホームはない。続けて降りる。一段と暗くなった。少し息が苦しくなった気がする。続けて降りる。ガラス張り。その向こうに駐車場が見えた。助かる。外に出られると思った。扉がない。もう一階下なのかもしれない。扉を開けて、下へ降りた。突然、風が入り込んできた。今、降りてきた階段が、音を立てて崩れる。ドレミ、ドレミと歌うように。下界から着物姿の女が入ってきた。「何をしているの?」迷い込んだ犬に言うように言った。今日で取り壊すのだと言った。乗換えを探して降りてきたのです。「駅に行きなさい」女は言った。


posted by 望光憂輔 at 00:25| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月09日

星空

 階段を上って渡り廊下の窓から清々しい風が吹き込んで思わず人が歩いてくるのにも構わずに「風だ!!」と声に出して言ってしまった。迎えの人が来てくれた。遠くに母がいて、近くに父がいて、そしてラモスがいたのだった。ラモスは僕に手を差し出してがっちりと握手をし、父は僕の肩をぽんと叩き、母は遠くにいた。雨が降ったということで、車は置いて、みんなは歩いて迎えに来てくれたのだった。ぱらぱらと少しだけ雨が残る道を、みんなで歩いて帰った。
 雪だ。はらはらと雪が降っている。妹が心配そうに雪を見ている。このまま降り続けると降り積もって明日列車は動かなくなってしまうかもしれないから、早めに発った方がいいかもしれないね。
 体育館の前に一台の車がやってくる。僕は入口の角の暗がりに身を潜めて待っている。真っ先に入っていくことや、入口で堂々と待つことは気恥ずかしくて、ちょっと遅れてやってくるように見せたかったのだが、警官が通りかかって、今にも僕に声をかけそうで、僕は何だかわからなくなって必死に手首足首を回していたけれど、その内大勢が入っていくので、僕もそろそろ体育館の中に入っていくことにしたのだった。靴はロッカーに預けて、鍵はかからなかったけれど、靴くらいだからいいのかと納得して、受付で5000円札を差し出すと妙な間が生まれ、千円札がありましたと言うと、女もいいえ気にせずにと言うのでそのままにしておくことにした。家でゆっくりもしたかったけれど、体育館の光により強く吸い寄せられて僕は来てしまった。子供たちの弾くボールが飛んできて、手を出したけど少し届かずに向こうに流れて行ったから、もうあとは追わないことにして通り過ぎた。少女が熱心に投げやりサーブの練習をしている。一瞬上に投げて、すぐ落ちてくるボールをいつも正確な打点で捉える動作を尊敬を込めて見つめた。子供たちの姿が徐々に減ってゆき、多くの台が空き始め、「まずはラリーから始めましょう」とコーチの声がして、僕はうちわを取りに受付に戻ったのだけれど、弱かったり小さかったりバランスが悪かったり柄が曲がっていたり汚れていたり、適当なのが見つからず、熟考の末に柄は少し短すぎるけど面の大きなうちわを選んだ。今度は西側からコートへ戻ろうと通路を歩いて行くと、天井に円形の空洞がありその遥か上空には水槽に戯れる小魚のように無数の星々が光を帯びて貼り付いているのだった。「どうして星が?」この時代に星が見えるなんて。「本物ですか?」勿論本物だと館長は答えた。望遠鏡の力だと言う。


ラベル:星空
posted by 望光憂輔 at 00:28| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月07日

靴滑りの朝

 靴滑りで疾走する僕がいる。朝の道には誰もいない。シャツをまくるとまた食われている。コインが次々と零れる音がして、自販機からあふれ出ているけれど、本当は言葉なのだ。言葉が金属的な響きを立てながら革命を起こしているのだ。年が明けるとはこういうことだった。ムヒはあるのかい。確かにあるのだ。靴滑りで疾走する僕はすっかり今井ビルを通り過ぎてしまって、自転車に傘が突き刺さっているのを見たのだけれど、それは雨が降るという予兆などではなくて、誰かがお祝いの言葉を溜め込んでいる。「オシムが言葉を吐くので、バケツとタオルを用意して」と誰かが言っている。僕は追いかける。カメラを持って新しい朝を目撃するのだ。指をテープで固定するにはテープがどうしても足りなくて、僕は立ち止まって3人の男が流れて働く虫酔いのダンスを見ていた。ああ、やっぱり3人一緒にいるとドリフに見えてしまうなあ。ドリフが雨を降らせてしまう。つくづくと僕は靴滑りで疾走して、水溜りの回収車を追いかけていく。でも、クツワムシだよとタナパンが言った。「クツワの意味しってるの?」勿論僕は知っているよ。知っているから追っているんだもの。うつろいゆくものという意味でしょ。「ならいいんじゃない」タナパンがわけのわからないことを言って老いた木片の中に隠居してしまった。テープは縦にするとあっさりと貼れて、僕は再び靴滑りでメールマガジンと特選フィルムの入り交じったような霧の中を疾走する内に、また食われてしまった。今度は脚も尻も容赦なく奴らは踏みにじった。靴滑りで疾走する僕がこれほど食われているなんて。虹でできた歩道橋の下で僕はパンツを脱いでムヒを塗った。みんなはまだやってこない。

ラベル:クツワムシ
posted by 望光憂輔 at 01:53| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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