2011年06月01日

鬼をかわすテクニック

 目覚めると随分と体が重たくなっている。まだ夢の続きを引きずっていて向こう側とこちら側との境目が曖昧だ。向こう側では炊飯器を勝手に開けて人々が茶碗に盛っていた。「おかわりは有料です」と注意するけれど、もう盛ってしまったから仕方がないとか、もう食ってしまったから仕方がないとか腹立たしそうに言ってくるのでとても困った。「おかわりは200円です」と言うと男は茶碗に大雪のように飯を盛って持ってくると、「これでも200円か」と言うのでとても困った。炊飯器が誰でも手の届くところに置いてあるのが問題なのだが、その炊飯器は古来よりその場所に置いてあるのだから、下手に動かしてしまうと村が呪われてしまうと長老のような人が出てきて言うので、とても困った。また、炊飯器が空っぽになって、とても困った。困り果てたくらいに目が覚めて、忘れない内に向こう側で困ったことなどを具体的にメモしておく。後で読み返してみると、ほとんどのことは抽象的すぎて何が何だかわけがわからないのだが。
 目覚めた時は何時間もじっとしていたせいで運動不足になっているため、まずはボールを転がして体をこちら側の世界に慣らさなければならない。
 火曜の夜、青い鬼が、僕のボールを奪いに来ていた。僕はひらりとかわしてボールを守り続けたかったけれど、数回タッチする内に、行き場を失ってボールを奪われてしまった。狭い部屋の中で、何度もボールに触れて、目の前に仮想の鬼を浮かべながら、僕は新しい技の獲得を目指す。ボールに飢えた鬼が、頼りなげな足元を狙って猛然と突っ込んでくる。そこで一瞬の、長い夢の中の一瞬の再現も不可能な閃きに似た、新しい技。目覚めたばかりの足元で、窓の向こうからエアロスミスが聴こえてくる、その一曲が終わるまでの時間に、僕は新しい技を見つける。毎日毎日、一日一つの技を発見する。そんなことができるだろうか、と僕は思う。右足の裏にあるボールをすっと引く。右にぐっと踏み込んで、左足のアウトでくっと左に出て行く。そんな技はどこにでもあるのかもしれないし、基本中の基本なのかもしれないし、人の名前さえもついているのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。鬼が置き去りにされて、地団駄を踏んでいる。「あっ、技か」と言って立ち尽くしている。自分で見つけたという達成感と親近感が鬼に立ち向かうエネルギーになるのだから。ひらめきはときめきに、そして生きる力に変わるのだから。
 狭い部屋の中で、架空の鬼と汗を流した後で朝食にする。炊飯器を開けると中は空っぽで、とても困った。


ラベル:エアロスミス
posted by 望光憂輔 at 21:46| コサルビト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広場の真ん中で

 新しい居住区に引っ越してきたものの、まだどこが自分の部屋なのかはわからなかった。どこかに僕の名前の書かれた部屋はないかと探して歩く。一番隅っこの、ここだったらいいなと思った場所は、窓が割れていて誰も入れないように部屋はロープでぐるぐる巻きにされており、立入禁止と書かれた札が立てかけてあった。反対の方の隅っこに人気はなく、ここかもしれないと思ったけれど、そこには幼稚園と書かれた札が下がっていた。その隣は、病院だった。どこを歩いても、既に別の住人が住んでいる気配があり、結局どこまで行っても僕の名前の書かれた部屋は用意されていなかった。結局、僕の部屋はみんなの広場の空いたスペースということになった。そこに小さな机を置いて自分の部屋とした。色んな人が通りかがるので、あまり読書には集中できなかったし、物を食べるのも最初の内は周囲の目が気になって落ち着かなかったので、お菓子などを食べていたが、徐々に慣れてきてほとんどの物は食べられるようになった。けれども、時々、僕が部屋を留守にしている間に別の人がやってきて勝手に僕の机の上で魚を開いていたり鶴を折っていたりしているということがあり、その度自分の居場所に戻るまでに妙な間が空いてしまうことがあるのだった。「ここはあなたの?」と驚いたように僕の顔を見るのだった。「少し前から」
ラベル:夢小説
posted by 望光憂輔 at 01:52| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

鬼とエゴイスト

 火曜日の夜はコサルに出かけた。端から2番目の車両に乗って一番端の席に座ってコサルに出かけた。途中、読んでいる途中の文庫本を開いてゆっくりとしたペースで読んでいると、その間にも電車は終点に向かってどんどんと進み、次第に乗っている人の数も増えてきて立ち乗りをしている人の姿が多く見られるようになっていった。車両が重たくなったため、列車は少し速度を落としながら、線路の果てに向けて進んでいく。10分少し乗ったところで、僕は乗り換えのために電車を降りた。僕が座っていた端の席には、新しく立ち乗りしていた誰かが座ったかもしれないし、隣に座っていた人がだるまおとしのようにずれて座ったかもしれない。僕は振り返って確かめなかった。その時の僕の興味は今から向かう先にあって、今まで座っていた場所などではなかったからだ。
 まるまった子供たちの反省会が終わって、いよいよコサルの時間が始まる。コサルの人々が自由にボールを蹴っていると、施設の奥からコーチが現れて集合の声がかかる。

「おーい、それでは、コサルのみなさん真ん中に集まってください」

 青い鬼が僕のボールを奪いにやってくる。ドリブルして鬼のいないところまで、鬼ではない人々のところまで逃げる。鬼は少し追いかけて、駄目だと思うと目標を変えて別の人を狙う習性があるが、中には執拗に狙いを定めて追ってくる鬼もいる。本当の鬼ではないとわかっていても、やはり追ってくる鬼は恐ろしく、どの鬼にも捕まりたくない。鬼たちが狙っているのは鬼ではない人が足元に持っているボールだった。すべてのボールを外に蹴り出すことによって、青い鬼を卒業できるからで、徐々に鬼たちは鬼的なチームワークを使って人を取り囲み追い詰めるようになってゆく。ボールを失えば、楽になることは確かだが、僕はいつまでもボールを失いたくなかった。鬼よりも強く、どんな鬼よりも強くなりたかった。右から追ってくれば左へ、左から追ってくれば右へ、両方から追ってくれば真ん中に、自在にボールを操ってついには鬼たちは大挙して年末行事のように押し寄せてくるけれど、それでもまだ持っている、いつまでも持っている、鬼があきれるほどのエゴイストになりたかった。50秒ほどで青い鬼が仕事を終えると、今度は緑の人が緑の鬼となり追いかけた。僕も一緒に鬼となり逃げる人々を追いかけて回った。

ラベル:鬼ごっこ
posted by 望光憂輔 at 00:33| コサルビト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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