2011年06月03日

ロードレース

 鉄の塊をそのまま高いところに置いて、僕は手を離してそのまま帰るけれど、最後の感触が不安定で今にも落ちてしまうのかもしれないと思うとより遠くへ遠くへ逃げたかったのだ。駅は祭りのために封鎖されているけれど、祭りの間を縫って走る電車があるというのだ。本当だ。人波を縫って、あるいは人の上に乗り上げたりしながら堂々と電車が行く。待って、僕は乗ります。中は空いていて、けれども、僕は横掛けの椅子に、お婆さんの隣に座る。「いつでも100円なんですか? えっ、祭りだから100円なんですか?」 9時までにホテルに行かなければならなかった。けれども、僕は履歴書を持っていないことに気がついた。それも気になるしあれも気になる。
 今はこれしかないけどと僕は父にお金を手渡して自転車を走らせたのは随分前のことだった。今も僕は自転車を走らせている。前から白いボールが転がってくる。危ない、違う、あれは風に流されるスーパーのレジ袋。玩具屋に立ち寄って、硝子ケースの中を覗きこんでいると、お婆さんがこれなんかどうだいと言うそれは軟式テニスボールのように軟らかなバットだったが、床下からタカが現れた。5000円ばかりをタカから巻き上げて、その一枚で、おまえは点が取れないと言いながらタカの頬を叩いたが、本当はそれはタカを爆発させたいという願いからしたことだった。たどり着く場所のない道を、自転車を走らせてどこまでも行った。そして、また周回遅れの選手に会うように父の前を通り過ぎた。自転車はどんどん加速して、急カーブを大きく弧を描いて走り抜ける。その先の壁に突き当たるとそこはうどん屋さんだった。母がうどんを注文している。「おうどんください」と母が言う。

タグ:自転車
posted by 望光憂輔 at 18:16| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

GPS

 何度押しても動かないドアの向こうには電話機を抱えたママの姿が見えるけれど、その話し相手は僕ではなかった。駄目なの?なぜなの?その時の僕は、ドアを押すこと以外は考えられなかったのだ。その行為が間違いだったと気がついたのはずっと後になってからだった。どうして? ママは僕と目を合わせてはくれなかった。ちょっとした行き違いで、入れなかったドアが幾つもある。みっちゃんは来ないのかな。「寄らなくていいのかい? 寄らなくていいのかい?」斉藤玩具屋の前で僕は言ったけど、助手席のたけちゃんはただ笑っているだけだった。みっちゃんに電話してみよう。GPSによってみっちゃんの居所は瞬時に解明された。「ただいまみっちゃんは、自分の家にいて、ゴロゴロしています」なんだそうか、いるんだ、みっちゃん。車はみっちゃんの町へと向かう。駐車場管理人がぬーっとフロント硝子をすり抜けて車内に現れた。「ELTのチケットは持ってるかい?」たけちゃんは、ポケットの中から紙切れを取り出して広げる。AERか、これは。「それです」と管理人は言った。「ケータイ電話は車内に置いていってください。そうするとそれがあれになりますからね」世のため人のためと言うように言った。納得いかない決まりは無視するに限る。何も言わなくてもきっとたけちゃんもわかっているだろう。結婚したのか。日焼けしてそれに合わせて髪の色も変わっていたけど、みっちゃんはみっちゃんだった。「3つ下?」そう言うとみっちゃんは、違うよと笑った。中一の時に、その子はこんなだったよと笑った。だけど、関係ないんだよ、こんなになったらね。僕たちはもうこんなだった。けれども、みっちゃんは僕よりも遥かに逞しい人間に見えた。帰りの運転はみっちゃんに頼もう。きっとそれがいい。
タグ:GPS
posted by 望光憂輔 at 01:24| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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