2011年07月14日

10月の蟹

 ゆっくりとしていると男が近づいてきて、新聞はもうなくなってしまったのと訊いた。「そんなことはないです」と答えた。僕がゆっくりと新聞を匿っているだけだった。「そんなことはないです。今のところはないです」部屋に戻ろうとしていると、壁を蟹と貝が這って行くのを見つけたので捕獲して、持ち帰った。広げた新聞紙の上に置いて、しばらく観察していた。「あんたに読ませる新聞はなくなりました」
 あの子はあそこが自分の家だと思っているから、お手伝いをさせないように気をつけてと母が言っている。でも、そんなに好きな場所ができたなんて、あの子にとってしあわせなことだ。好きな場所が一つでもあるなんて、誰にでもあり得ることでもない。「お年玉を準備しないと」まだ10月なのに。それでも早すぎることはないと母は言った。千円も上げるのはためにならないから、200円くらいにしようか。あの子は今日は帰ってこなかった。
 銀行が潰れるといって人々が押し寄せていた。「会社はうまくいっていた。でも、ギャンブルで素っ裸さ」伯父さんは言った。僕は、マークシートを手にしてみると意外にそれは簡単な事のように見えて、恐ろしくなった。「塗るだけでいいの?」伯父さんはそうだと言った。「予想を立てて塗り潰すだけでいい」押すな押すなと後ろから人々が押し寄せて体当たりした。牛追い祭りの夜のことを思い出した。
 あの子が帰ってくるように賭けることになった。家の中でゴールを作り、たけちゃんの方に入ったら帰らない、僕の方に入ったら帰ってくることになった。ボールを蹴ると壁に跳ね返って、玄関の外へ飛び出してしまった。道路を横切って取りに行った。車が一台近づいてきたので、通過するのを待っていると、向こうもゲームの再開を待っているようなので、僕はそこからスローインでゲームを再開すると、僕の投げたボールがそのまま家の中の僕のゴールに入って失点してしまった。これでよかったとたけちゃんは言った。「いつも帰る帰ると思って帰らないんだから」せめて、賭けくらい勝たないとお母さんのためにならないからと言うのだった。
 蟹と貝を鍋に入れて茹でた。塩で味をつけて食べるのだ。「もったいな」と兄が言う。何がもったいないものか。通りかかった蟹と貝をもったいぶることはない。さっさと食べてしまうのがいいに決まっている。平らなたわしのような貝だった。どこへ行くつもりだったか。

posted by 望光憂輔 at 01:25| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。