2011年11月11日

野生の目覚め

 部屋の中に防犯カメラのようなものがあって近づいてみると赤いランプが消えていて、作動しているのか作動していないのかわからない。エアコンのスイッチと連動しているようでもあって、連動していないようでもあった。監視の下での生活を一瞬想像して、一瞬受け入れる覚悟をした。もう一度人形を組み立て直して、いつでも運べるようにしておいた。

「待ちなさい!」と止めても彼は、はやる気持ちを抑えきれないようだった。格子の隙間を通り抜けて駆け上がってしまった。人間には通れない程の小さな隙間、そこから覗き見上げると夕暮れの動物たちは、こちらの存在を知ってか知らずか塀や木の上に身を置きながらも微動だにしなかった。強い風が、通り過ぎるのを待っているように、あるいは夜を……。「帰ってくるかな?」姉が心配そうに言った。勢いだけで抜け出していったのならいいけれど。もしも、本当はこの瞬間をずっと待ち望んでいたとしたら。ついに、野生の目覚めが訪れてしまったのかもしれない。もう、家の事なんか忘れて、新しい世界で生きていくのだろうか。「どこに行く?」サラリーマンの一行が行き着く先について相談をしながら歩いている。「この辺にしておくか?」そうしてある店の中になだれ込んで行く。

 壊れたカメラを触りながら、いつまでも待っていた。部品の一つが取れて、それをどこに戻していいのかわからないのだった。カウンターの上を自分の机のようにして散らかしているとそれが誰かの目に留まってしまった。「いったい何をやっているんだ? ここは家じゃあないんだぞ。だいたいおまえなんか二十歳にもなっていない!」と言って責め立てた。「二十歳」と言ったところで隣にいた兄が鼻で笑った。それにしても遅い、遅すぎる。野菜汁というのは、そんなに時間がかかるものか。「遅い! 遅いなー!」カメラで責められた腹いせに僕は声を上げていた。「おじいさんが作っているんだから」と兄が諭した。おじいさんが、ゆっくりと作っているのだった。待ち切れない程待ちくたびれた頃、おばあさんが手に皿を載せて厨房の奥から現れた。「お待たせね」大きな皿の上には、倒れたクリスマスツリーのように竹の子が載っていた。野菜汁? これ、野菜汁……。

 人形を抱えて離れ座敷まで運んだ。そっとドアを開けると奥の方から何人かの歓談する声が聞こえた。忍び足で通路を通り、応接間まで行くとソファーの上に人形を寝かせた。三脚付のカメラがソファーの上を見つめていた。作動しているのか、作動していないのかわからいが、小さな息遣いが聞こえた。そのまま部屋を出ようとした。「フラッシュメモリを抜くのだ」どこからともなく父の声がした。急いで戻ってフラッシュメモリを抜き取った。人形は上を向き、ずっと目を開いていた。


posted by 望光憂輔 at 02:51| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月10日

球技大会

 床から見上げる彼女は何かを迫っているようで、たまらなく嫌悪感が湧いてきた。向こう岸へ渡り、顔を近づけてキスをした。近づいてみると、彼女はとても可愛らしく重ね合わせた唇の感触は、最も恵まれていた時期と何一つ変わってないようだった。彼女が離れてゆくことが、今さらながら惜しくなった。「眠たいの?」声だって、少しも変わっていないのだ。炬燵に深く入ることなど滅多にないから、眠たくなってしまうと僕は説明した。おじさんが階段を下りてくる音で目が覚めた。僕の隣で、彼女も眠っていた。
 乾いた田んぼの中で、彼女は2匹の犬とサッカーをして遊んでいる。浴室用のビニールシューズを履いて、母が用意してくれた紐で走っても脱げないように固定するのだけれど、紐が滑って上手く留めることができなかった。そうしている間に、犬たちは彼女を連れて、彼女は犬たちを追ってどんどん遠くまで行ってしまうのだ。ようやくなんとか固定を終えて、外に出た頃にはもう球技大会は終わっていた。ボールが行方不明になってしまったのだ。彼女は庭先で兄と話をしていた。ワンピース姿の彼女は少女のように見えた。「今日帰るの」ボールを探して歩く内に、徐々に紐が緩んできてかえって邪魔になるため外すことにした。普通に歩くくらいなら紐など必要ないのだ。田んぼの中で白いボールを見つけることはできなかった。泥に塗れて色が変わってしまったのかもしれない。あるいは、土の中に埋もれて見えなくなってしまったのかもしれない。家に戻って、泥だらけになった浴室用ビニールシューズを脱いで、スニーカーに履き替えた。2匹の犬は、柿の木の傍で互いの尾を追って回っていた。彼女の姿は、どこにも見当たらなかった。「今日帰るの」その時が、今を待たず過去形になってしまったのかもしれない。田んぼの中には、誰もいない。

posted by 望光憂輔 at 03:09| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月09日

侵入者

 3階にまで越してきたので今度は階段で下りることも容易だった。下りかけたところで、誰かが上がってくる気配、不吉な予感を感じ再び引き返した。鍵を締めて、ドアの内側で息を殺して待っていた。3階まで上がってきた足音は拡散しながら破壊的な音を立てた。どこかの、ドアは破られたようだった。
 黙って家を出たことは悪いことだったかもしれない。でも、僕の飛行の目的は町をパトロールすることにあって、それは善い心からきているのだから、この場合の善悪はどういうことになるのだろう。どこかで、僕の助けを必要としている人がきっといるのだ。僕は高度を一層上げて、長距離飛行に入る準備をする。消防車のサイレンの音が聞こえる。何台も、何台も、地上を消防車が通っていく。

 大林家は自転車専用道路に隣接していた。ペダルをこいで通り過ぎようとするが、坂道のある1点を越えることができず後退してしまう。勢いをつけて、乗り越えようとするが、なかなかうまくできない。少しでも早くその場を離れたかった。復讐のために留まっているなどと、誤解されてしまうことが嫌だったのだ。これで最後という力を振り絞ってペダルをこいだ。坂道のある1点には、見えない力が宿っているようで、乗り越えられるはずなのにどうしても越えることができなかった。ついに、転倒して自転車を失ってしまう。大林トンネルの中は真っ暗で家の人はみんな留守にしているようだった。ポケットから取り出したナイフを掲げ、その明かりを頼りに歩いた。誰にも会いませんように……。不安のあまり、鼓動が高鳴る。それは時を打つ柱時計の音だ。柱ごとに別々の時を刻んで、侵入者を迷わせようとしているのだった。窓の1つもどこにもない。ナイフの明かりが、瞬いて、もう少しで尽きてしまいそうだった。より深く迷子になっても構わない。トンネルの出口を求めて駆け出した。ついに、その果てから明かりが射し込んだ。誰かが家のドアを開けたのだ。おばさん……。おばさんの顔先に、僕はナイフを突きつけて立っている。「違います」そう叫んで、僕は大林家から逃げ出した。自転車道を全力で駆けた。おばさんは、僕の顔を見ただろうか。自転車が、坂道のある1点に残留して、何かを物語ることが怖くて、怖くて、振り返らずに駆け続けた。

「上着着てるの?」みんな半袖で、ポカリスエットを飲んでいた。いつの間にか夏になったのだ。ジャージを脱いで、ハンガーにかけた。
「あいつなら家にいるかもしれないぞ」
 僕の部屋にも近づいてくるようだった。あいつというのが、前に住んでいた奴を指しているのか僕のことを指しているのかわからなかった。ドアの内側で、必要以上に小さくなって、必要以上に息を殺して、待った。ポケットの中で、携帯電話が震えた。僕はポケットを手で押さえて必死で音を殺そうとした。その時、目の前のドアがすべて可視化されているような感覚に襲われて、足が震えた。しばらくの間、ドアを睨み続けて、可視化の波と戦った。奴らは行ってしまったのか、いくら待っても次の音は来なかった。息絶えた携帯電話を取り出して履歴を見るとそれは赤く表示されていた。折り返してはならない、という警告だった。

posted by 望光憂輔 at 02:25| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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