2011年11月16日

ドリームマッチ

 昨日は巨大なボスが通り過ぎたためにドリブル屋敷のコースは所々で壊れていたり、狭まっていたりした。成績優秀者は次々と帰っていき、残りは2人だけになってしまった。そこ狭くなっているからとコーチがわかったことを言う。もう早く帰りたかったけれど、ここまで来たらもう最後の1人になっても構わない気もした。スラロームを抜けると、次は反復ヨコドリブルコースだ。「頭を使ってやれ!」いきなりコーチが過酷な課題を出した。「オイルはつけなくてもいいから」一転して小さな配慮もみせたようだったが、「1000回でいいから」と事も無げに付け足したので気が狂いそうになった。それで過剰な反応をみせるのも癪に障るので、こちらも何事もないように言われたとおりに頭を下げて、反復ヨコドリブルに入るのだった。1往復した時、もしも異を唱えるとすればコーチの口から1000という数字が飛び出したまさにその瞬間で、唯一のチャンスを逃した自分の反応の鈍さに嫌気がさしていた。1000回! 何を馬鹿な! 100回だって充分に狂っているというのに。僕は頭を垂れながら、頭を地面に擦りつけながら、反復ヨコドリブルを繰り返す。長い髪の毛が、顔中に巻きついて、息が苦しい。だんだんと、息ができなくなってゆくのだった。

「さあ、みんなも降りておいでよ」

 僕は率先して降りてきて、テーブルの上のあえて不安定なフルーツの上で選手名簿を開く。当然みんな揺れているけど、それはまだ何も決まっていないということの象徴でもあるのだから、それが正解というわけで、案外そこまで理解して見守っているのは、むしろ子供の方が多かったりもするのだ。

「眠れない街をスタジアムにするのだ」

 手を貸せる人は手を貸してください。そう呼びかけるまでもなく、人々は降りてきて、きらめくボールの下に集まってくる。みんな心を1つにしたかったのだ。心を1つに寄り集まるための象徴としての何かを求めていたのだった。見知らぬ誰かと絡み合い、もつれ合い、抱き合いながら、人々は夜の中を降りてきた。ぼくときみはみんな1つだ。元から別のものなど、この世界にはなかったのだから、みんな同じ出発点を知っていて、みんなそこに帰りたかったのだから。勝手な理由と思い思いの服装で降りてくると、人々はごく自然に名簿の中に加わった。まるで、花見の衆に加わるように。

「一夜限りの夢を今夜も」

 ドリブルで駆け上がるが敵も味方も反応を示す者はごく僅かだった。降りてきたけれど、ほとんどのものはまだ眠っているのだ。味方に向けパスを出すと跳ね返って転々とし、ピンボールのような夜だった。スコアは何対何かで同点だった。何点入ったかは計測不能だったが、交互に入り続けていたのは間違いなかった。ほとんどの得点は僕と、あいつによるものだった。「反復ヨコドリブルは、最後までやったのか?」あいつは、いつの間にかいなくなっていたのだ。「まだ続いているよ」と僕は答えた。ボールはビルの間をすり抜け、人に当たって戻ってくる。風に乗って浮き上がり、桜の木の上で一休みする。幾度も繰り返される歌の中で、酩酊して、巨大化した魚の体内で警告を受ける。木だと思っていたものが突然、ボールを蹴り返してきて、止まっていた時計、人形たちが我に返ったように動き始める。

「ナショナルタイムは夜の内です」

 何者かが蹴り返したボールを僕は足の下で隠した。その時、自分は無収入なのだと突然気がつくが、僕は何も悟られないようにあいつの顔を睨みつける。ボールはカブトムシのように小さく、その気になれば何時間でも足の下に置いて隠しておくこともできたが、昆虫の俊敏で逞しい足は1秒間の間に何百本ものシュートを打つことができるのだし、未知の可能性と残された夜の光がゆっくりと僕の体を反転させた。ゆっくりとゴールの位置を確認して、ゆっくりと右足を引いた。シュート! そして、ゴール! となるはずだったボールは想像以上の空気抵抗を受けて、ゴールライン上で静止した。その瞬間、足を止めていたあいつがゴールに向かって走り出す。その様子を視界の隅に置きながら、僕は両の手をゴールに、そしてボールに向けて念を送った。小さなボールは、一文無しの手から送られる微弱な念を、確かに受け止める。熱を蓄えた水が、自分自身の中から何かを切り離す瞬間の微かなざわめきに似た仕草で、受け止める。静止したはずのボールは、今度は自らゴールに向けて動いた。初めて自分の意志を獲得したようだった。失点の瞬間を見届けてからゆっくりと振り返ったあいつに、僕は微笑み返した。

posted by 望光憂輔 at 04:00| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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