2010年08月04日

ちょっとかたいね

「味がちょっとかたいね」
 てんぷらを食べながらユウちゃんが言った。この鋏かたいねと言う時のように言った。

「全国ちゅーんの、いれぶんセブンができたのよ」
 お祖母さんがデタラメなことを言った。

「味がちょっとかたいね」
 言い回しが気に入って、ユウちゃんは何度も繰り返している。

「虫! ハチ!」
 網戸の傍にいる虫を、見つけて指差す。小さな虫は、攻撃を仕掛けるために向かってくることはせず、むしろ網の隙間を見つけて外へ飛び出そうとしているようだった。隅の方を行ったり来たり彷徨っているが、なかなか自分の体を滑り込ませることのできる隙間を見つけられずにいるようだった。

「パペロンチーナを食べたのよ」
 お祖母さんが、またデタラメなことを言った。
 突然、ユウちゃんがスプーンを置き、手を使ってご飯を食べ始めた。素手で次々と口に放り込む。
「どうしたの?」タコお母さんが訊く。
「昔を、思い出したの?」
「お母さん!」
 口の周りがすっかり汚れてしまって、ユウちゃんが叫んだ。
「べたべた!」
 いつの間にか、小さな虫は見えなくなっていた。どこかに隙間を見つけて、脱出を遂げたのかもしれない。しばらくして、ユウちゃんは黙り込んだ。しばらくの間、ユウちゃんは無口だった。眠たくなったのか、顔を曇らせて、不機嫌な様子になっていき、やがて突然泣き出してしまった。
「ユウちゃん、どうしたかね?」
 ユウちゃんが泣き出すと、お祖母さんは、ありとあらゆる方法でユウちゃんを励まそうとする。おかしな顔をして、おかしな手振りをして、ザンブロッサスパゲティーのようなおかしな歌を歌い出す。そうすると、ほんの少しだけユウちゃんは元気を取り戻す。きっと、何度も何度もそうして歌ってきたのだろう。だから、ユウちゃんは、お祖母さんのことが大好きだ。
 その昔、タコお母さんにも、同じように歌っていたのかもしれない。


posted by 望光憂輔 at 15:43| いとくるしい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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