2010年09月18日

握手

 「ナンプレガーデン」は持っていかないのかと母が訊いた。いらないと僕は言った。最初から僕はいらなかったのだ。

「これは誰?」
 僕を指しながら母が尋ねると、父の唇が動きそうになる。けれども、動かない。

「帰るよ」

「また来るよ」

 ベッドに置いた僕の手が沈み、父は頷いたように見えた。
 手を握ると父も握り返した。力があった。父の手は、なかなか離れなかった。うれしかった。
 今日はとても調子のいい日だった。
 もしかしたらと僕は父に手を振ってみたが、期待しすぎだった。握手だけで、僕には充分すぎたのだから。
 僕は最後に、父とちゃんと別れの握手をすることができた。ずっと忘れないのだ。


ラベル:小説
posted by 望光憂輔 at 19:58| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。