2011年07月24日

土作りの薄暗い家

 車はゆっくりと下がっていた。ヒッチハイクで拾った車は、僕の目的地よりも彼女とのかくれんぼの方を優先しているので、旅は遅々として進まなかった。「今、いなかったかな?」曲がり角まで下がって、男はつぶやく。僕は答えない。後ろから、クラクションが鳴り響く。思い直して、男はアクセルを踏む。車は加速して、黄色信号と同時に更に加速して、交差点を通過した。強い日差しがフロントガラスから照りつけて、運転手はいつの間にか兄に変わっていた。名所を巡る旅をしていた。兄は、駐車場でもないとんでもないところに、車を挟み込むようにして止めた。なぜか、泥棒が入った後の家のようだと思った。
 土作りの薄暗い家の中で、人々は展示品に見入っていた。幾つものワイングラスが逆さまになって宙に浮いている様を、硝子のような眼で見つめていたのだった。けれども、僕は見つめる側ではなく展示品の中に入り込んで、逆さまになって宙に浮いてみせた。何秒も経って、僕が奇跡を演じていることを認めた人たちは、大いなる拍手で僕を包み込んだ。「どうやってるの?」誰かがつぶやく。充分に楽しんでもらってから、少し頭に血が上り出した頃に、僕は一回転して着地すると展示品の中から抜け出した。新しくやって来た人たちは、単にマナーを守らない若者の一人がいるくらいに思ったことだろう。居合わせた親戚の人たちに、僕は自分の秘密を打ち明けなければならなかった。「まだ幼い頃でした。同じ夢を何度も見ました。僕は空中に一定の間留まることができたのです。現実の中で試してみたところ、夢の中と同じようにできました。停留時間は、夢の中でも最初は数秒でしたが、今は数分間は大丈夫です。けれども、体力は確実に消費しますし、地面との距離によって恐怖も増します」親戚の人たちは、浮き上がる僕の話を見上げながら聞き、「ほーっ、そうか」と伯父さんが言い、やがて皆背中を向けて帰っていった。「おまえは三番目だから、もっと飛躍しないとな」土作りの薄暗い家の傍で、男たちは重たい話をしていた。僕らは駆け寄って、「三人のコント師の人でしょ」と言った。テレビで見たことがあった。「お兄さんたちは、三人のコント師なんでしょ」三人は、何も答えずに話を続けた。
「僕が昔、住んでた場所を覚えてる?」姉は、覚えていないと言った。それは今と同じ住宅の西側の端から三番目のところだった。「もしも、100回飛んだとしても、それが全部夢だったら? それもこれも夢だったら? 夢を現実と自信を持って、現実の中で飛んでしまうとどうなるだろう?」姉は、足の爪を切りながら、そういうこともあるかもしれないと言った。「貼らせてもらっていいかな?」代わる代わる家の前に業者がやって来て、紙を貼っていく。70%OFF。

posted by 望光憂輔 at 22:34| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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