2011年07月28日

ドアと手

 ヘルメットを被った赤ちゃんがどんどん降りてくるので、落とさないようにキャッチしなければならない。「あの雲からこっちが私の物語ね」と女は言った。じゃああの雲からこっちが僕の物語だ。洗面器を抱えながら、次々と落ちてくる赤ちゃんを受け止めた。僕の方に少し片寄っている気がする。洗面器が随分と重くなり、足つきが不安定になってきた。移さなければ。いっぱいになった赤ちゃんを、バケツに移しに行く。その時ばかりは、物語の境界を越えて、女は助けに来てくれた。ありがとう。いえいえ。けれども、その時にすくった赤ちゃんは、すべて女の物となった。それでちょうど良い感じだった。ヘルメットで守られているため、赤ちゃんは静かに静かに降り続けた。赤ちゃんが降り止むと、女はいなくなっていた。
 誰かが部屋のドアに近づくのがわかった。もう一つの鍵を使って開けようとするのがわかった。ドアのランプが赤から青に切り替わる音がする。開いてしまう、という瞬間に手を伸ばしてドアを押さえた。「誰だ?」声は出せなかった。ドアをすり抜けて手だけが入ってきて、ドアの内側に貼りついていた。指の長い手。男のものか女のものかわからなかった。じっと耐えていると急に圧力が消え去った。手だけを残して、足音が去ってゆく。奇妙なものを忘れられては困ると思い、ドアを開けて追いかけたかった。けれども、体が動かなかった。振り返ると、ベッドの上に赤ちゃんを抱いた自分の姿があった。赤ちゃんと一緒に眠っているのだった。起こすことは気が引けた。再びドアに貼り付いた手を見た。手ではないものに変わるまで、見ているつもりだった。

posted by 望光憂輔 at 03:16| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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