2011年09月29日

無限コーナー

 靴紐を何度も結び直すのを審判が急き立てているが、それでも彼はまだ水分を補給する余裕さえあった。どうせまだ蹴らないのだろうと僕らはフェンスの外でまだ夏休みの思い出話をしていた。あの頃は、終わることが来ようだなんて誰も夢にも思わなかったけれど、こうして終わることになってみるともう一度最初から巻き戻してやり直してみたいものだ。最もよかったのは、夏休みに入る前の、まだ夏休みを楽しみにしていた頃だった。まだ始まってもいない、終わりに向かうことも決してない夏休みの原型の中に、本当の安らぎはあったのだ。コーナーキックは、フェンスに当たってやり直しになる。もう一度、もう一度。

 七度目のコーナーキックが宙を舞う頃、僕たちはライン際を回って、外野の守備へと向かった。
「ペンを持ってる?」
 互いに装備を確認し合った。新しい課題が見つかった時のために、僕らは常に筆記用具を身につけていたのだ。小さなノートから伸びた白い紐が、ペンの後ろにくっついて自由に伸びる様を彼は自慢げにこちらに見せつけた。
「考えただろ」
 逃げないようにと言った。どんな打球を追いかけて、走り抜けようが、高く飛び跳ねようが、ペンがノートと離れ離れにならないように……。低めに集めたエースの投球は、いかなる打球も外野へと運ばせなかった。陽だまりの中を悠々と横切っていくのは、小さな猫だった。


posted by 望光憂輔 at 02:05| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。