2011年10月05日

雪の文字

 小さな声は雪の一片で、僕はそれらをかき集めてアイとエルとを作ったけれど、すぐに雪は翼を畳んで、細々とした雨に変わっていったから、計画は頓挫してしまった。せっかくできたアイとエルさえも、雪でないものに触れられて駄目になってゆく。どうしてもっとチャンスをくれないのだ。
 たくさん泣いたから、もうしばらくは平気のはずだった。涙を瓶に詰めて、時計代わりにしていた。けれども、誰かが底に穴を開けて、時間を早めてしまった。零れ落ちる雨は、アイとエルをすっかり溶かしてしまう。そして、空洞の中には、またかなしみが入り込もうとするのだ。雨よ、包め。何も持ち帰れない、僕を包め。

 自転車を、父の入り込む隙間を残して止めた。できあがっていたアイとエルの形を、もう一度思うと声が出なかった。
「駄目だったかね」
 湯気の向こうで、母の声がした。何でも知っているようで恐ろしくて、僕は舞台の上から転げ落ちそうになった。

posted by 望光憂輔 at 01:02| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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