2011年10月06日

朝は朝だけ

 ゴミ捨て場のような床には紙くずやペットボトルが散乱していた。誰かが最初にそれをして誰かがそれの真似をして、最初はそんなじゃなかったのに、気がつくとゴミ捨て場のようになっている。一度ゴミ捨て場のようになってしまえば、そこから抜け出すことは簡単ではない。それはもう本当のゴミ捨て場と区別がつかず、中には本当にゴミ捨て場と思っている人さえいるのだ。最初はこうではなかった。その最初の悪が生まれる瞬間に、誰かがそれを止められれば良かった。

「すごい数の募金ですね」
 カウンターの奥で女は笑っている。
「いいえ。拾ってきたんです。僕が」
 声の大きないつものお客さんがやってきた。
「A1ってわかるかな?」
 早口で大きな声で言う。僕はコピー用紙を思い浮かべる。
「紙ではないよ。肉の種類なんだけどね」
「すきやき編集は朝はできないんですよ」
 朝から肉は無理な相談だった。けれども、誰かがチケットを買う音がする。僕はチケットを朝モードに切り替えることを忘れていたことを思い出し、慌てて走り出した。もう遅かった。
「朝は朝だけなんです」
 遅かったけれど謝った。僕の声が聞こえないように、男は続けてコインを投入して、またしても夜を引き出そうとしている。
「朝は朝しかないんです」
 もう一度、今度は少し声を大きくして言った。
「なんだと?」
 男はいきなり僕の顎を掴んだ。昔、そのような技を使っていたことを思い出した。ずっと昔だった。


posted by 望光憂輔 at 12:06| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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