2011年10月07日

墓場の決戦

 シビアなパスをくれと彼は言ったけれど通過してしまうことが怖くて弱いパスしか出せなかった。「取られてしまう!」もっと速くていいと言いながら恐ろしく速いパスを出してくる。少しでも気を抜けば足元をすり抜けていく。そして敵に奪われてしまう。今のところ敵は一人しか見えず、そいつはゴール前を守っていた。もう一人の敵はどこかに隠れているのだろうか、今のところ姿を見せなかった。岩陰にでも隠れているのかもしれない。今度は意識して強いパスを出した。彼は余裕でそれに追いつくと、もっと速いパスを出せと言った。僕は弱かった。自分の強さと彼の言う強さとでは雲泥の差があるに違いなかった。敵の目の前まで迫るとやはり彼はシュートのように破壊力を伴った強いパスを出した。僕は必死に駆け寄ってダイレクトでシュートを打った。
 敵は大きく息を吹いて僕を吹き飛ばす。みるみるゴールが小さくなっていった。強風が収まるまで座布団を被って耐えた。「かーっ」味方の悔しがる声が遥か彼方から聞こえる。僕が遠くへ飛ばされ一回休みをしている間、彼は一人で攻め込んでいた。連続シュートを浴びせながら敵の呼吸を止めていた。
「今行くぞ!」僕は急いで応援に向かった。ようやく近づくとゴール前は嵐になっていた。落ち葉やペットボトル、紙くずや手袋、二人の男が浮かびながら混沌としているのが見えた。

「ふわー」
 敵の一息で僕は再び飛ばされてしまった。遥か彼方、嵐の中で星星が煌くのが見える。星星の中から何かが突き抜けてこちらに向かってくるのが見えた。あるいは、上空に上がってゆくのか、遠ざかってゆくのかもしれない。けれども、それは徐々に大きくなり唸り声を上げている。蹴り返さなければならない。いつまでも彼一人に戦わせておくわけにはいかなかった。軌道が高い。僕は足をあきらめヘディングで対処することに決めた。来る、来る、来る。ボールの周りに何かがまとわりついている、あれは、何だ。生首。それは生首だった。僕は一瞬首を引いてしまいヘディングは空振りに終わった。ボールは墓場の方まで飛んで行くと、炎を蓄えて戻ってきた。「パスだ!」彼の声が聞こえ、僕はボールを出迎えた。今度は逃げないように、身を引かないように、たとえ生首であっても負けてはならない。シビアなパスを彼に送るのだ。その時、岩陰から敵の一人が現れて炎の争奪戦に加わったことで数的に互角になった。今から本当の勝負が始まるのだ。

posted by 望光憂輔 at 01:32| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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