2011年10月11日

冬の列車

 何かが鍵穴に差し込まれようとしている。僕でないものによって、ということは誰かが間違えているのだ。ドアノブを無理に揺さぶっている。早く間違えに気づけばいいのに。あなたは別の階の別の場所の別の部屋の別のドアと間違えているのだ。そのせいでほんの少し他人に誤解や恐怖を与えていることに気づいているだろうか。そろそろ気づいてくれると思うが。こちらから言う前にどうか自力で気づいてください。その方が何もなかったように終われるのだからその方がいいと僕は思います。また何かが鍵穴に無理に入ってこようとする。間違えたのが、場所などではなく鍵の方なのだというように何度も執拗に繰り返される実験、挑戦、そして失敗。どうしてそれは終わることがないのか。人間なら失敗と反省を併せ持っているものではないのか。もしかしたら、子供の時、生き別れになった猫が尋ねて来ているのかもしれない。

「誰ですか? すみません、誰なんですか?」
 答えは何もなかった。そうして何度もドアノブに働きかける内に、ドアは開いてしまった。母だった。
「遅くなった」
 肩から雪を払い落として、上着を脱いだ。
「今日はここに泊まろうか」
 どうしてここに泊まるのだろうか。けれども、もう決めている、あるいは決まっていることのようだった。続いて姉が入ってきた。
「まあ、二人一緒で」
 靴底についた雪を玄関で払い落とし、白い冷気をまとったまま上がりこんできた。
「あんたは帰るでしょう。今日は」
 今日は無理でしょうと母が言った。
「無理でもないけど……」
 姉は帰る腹のようだった。
「また来なさい」
 あらためてくるように母は言った。どこにくるのかはわからなかった。

 ブロックを連結させて姉と遊んだ。
「夜行列車だよ」
「もっとつなごう」
「こっちはひかりよ」
「じゃあこれは?」
「つなぎすぎたら走れなくなるわよ」
「飛ぶから平気だよ」
「大陸横断超特急よ」
「わあ! クジラみたい!」
「そんなこと言うもんじゃありません!」
 母が突然、子供の遊びを止めた。
「お父さんは、今クジラの中なのに」
 姉と僕は何も反論しなかったし、謝りもせずただ黙り込んだ。すべての列車は解体され元のブロックに戻った。玩具箱の中で次の旅を夢見ながら。


posted by 望光憂輔 at 18:32| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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