2011年10月21日

歌い解く

「歌うことをやめなければうそつきになってしまう」

 話し込んでいる内にいつしか自分の席だと思い込んでしまう。先生がやってきて、君と言い、僕は間違いに気づかされる。引き出しの中はそのままにして、僕は本来自分のいるべき場所へ向かうのだけれど、引き離されてゆく気がする。自分のいた場所が本当に自分の居場所だったらという思いが支配する中で、もうテストは始まっている。1問50秒で解かなければ全問は無理ですというアナウンスが天井から流れる。

 長椅子の向こう側、面接官は鍋の美点について語り出すけれど、聞いている内に笑顔がこみ上げてくるのだった。「実はもう持っているんです。1つ」得意気に言って、席を立つが、展示場にはたくさんの鍋が並べられているせいで、自分の持参した鍋がどれなのかわからなくなってしまった。何周もしてようやく見覚えのあるほくろの1つを見つける。大勢の鍋の中に紛れてしまうと思ったほど大きくはなかったと気づかされる。歌うことをやめなければ、もう僕はうそつきになってしまうのだ。「ねえ、これなんだよ」蓋を開けて、テーブルの上で回して見せた。「何をするんだ?」友達は冷静に関心を示した。「ほら、軽い!」

 今、20問目に到達していないと全問は無理ですというアナウンスが天井から流れる。僕はまだ1問目に苦戦している最中だった。難しい。

「歌うことをやめなければうそつきになってしまう」

 やけになって僕は鍋蓋を回している。この軽さをわかってほしいと思っている間にも、みんなは鉛筆を走らせて時が駆けてゆく。歌ができる予感が満ちてくると、また1つの思考が停止されてしまう。落葉の1つを僕は千切って、鍋の中に落とす。「何?」そうだ、正にそのために、意味などないのだという証しのために、僕は落葉を。
 雨が、鍋の中を打ち出して、それと共に最後の時が迫っていた。僕はもう歌うことをやめなければならないけれど、解くことはあきらめてただ問題文を眺めていることに決めてしまったのだ。今ではもう、問題文もすべて英語で書かれている。

posted by 望光憂輔 at 19:32| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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