2011年11月04日

優しい眠り

 暗がりの中で男は頭をかきむしっている。やがてその炎に魅せられて鳥が飛んでると赤々と包まれながら燃え落ちた。鳥が落ちた後も、羽根がまるで生き物のように男の頭の周辺を舞っていた。やがて、男の首が落ちると日本の首相が演説を始め、みんなが眠り始めた。
 誰かが勝手にドアを開けて入ってきて、布団の上の僕を見つけるとあっと言ってドアを閉めた。何かの間違いだと思っているとまたしばらくしてドアが開き、さっきの女2人が入ってきた。今度は驚く素振りもなく、2人して意を決したように靴を脱いで上がり込んできた。2度目はためらわないというわけか堂々として、布団の先に陣取って胡坐をかいた。ここは私たちの部屋ですよという態度だった。「勝手に触るな」自分の家の物に触れるように彼女たちが、乾ききらない洗濯物の端に触れたのだ。昨日は晴れていたのにねと言って女は勝手にティッシュの一枚を抜き取って鼻をかんだ。「14階には空き部屋はないんです。もうずっとないんです。空いているのはごく下の方の階だけです」理屈を持って説得を試みると少し話が通じた様子で、女は顔を見合わせている。

 家に帰る坂道の手前に差し掛かり上を見上げると男が二本の長い棒を担いで駆け上がっていくところで、少しでもバランスを崩せばこちら側に落ちてくることは必至だった。他にも工事用車両が止めてあったり、所々で地面が抉れていたりして通行止めになっていないものの、通行しないことが賢明な道のように思われて、僕は引き返した。ずっと回り道をしなければならないと覚悟していたけれど、意外なことに家の裏の建物が取り壊されてそこに近道ができていたのだ。掘り返され踏み固められた土の上を、僕はボールを足で転がしながら進んだ。道沿いには剣を持った戦士たちが並び、次の指示を待っているようだった。「息子です」僕は誰かに止められないよう、そこを通り抜ける正式な資格を持った者であることがわかるように、声を上げながら進んだ。「息子です。息子が通ります」

 廊下には明かりがなかった。玄関は閉まっていないのは、何も盗まれてこまるようなものがないためだろうか。みんな盆踊りに行って、家の人は留守だった。家の中もやはり明かりはつかなかった。何もすることがなく、しばらく横になった。いつか、家の人が帰ってくることが不安で、眠ることはできなかった。
 家から少し離れたその場所は庭ではなく、草原だった。風呂に入りたくて足を踏み入れたけれど、そこにお湯も湯船もなく、仕方なく服を脱いで草の中に体を沈めた。草は体半分が隠れるほどには深く、僕はその中に体を浸しながらどこかから漏れ聴こえてくるオルガンの音をじっと聴いていたのだった。僕の他に人影はなく、近づいてくるのは冷たい夜の気配だけだった。昔、ミステリーサークルを作ったという老人の話を思い出したが、僕には何の道具もなかった。「人を楽しませたかったんだよ」両腕を目いっぱい伸ばして、くるくると草の中を回った。外に飛び出してしまうかもしれないと思ったが、草原は広く僕の回転記録は短いものだった。何度か回っている内、何か棒のようなものが僕のお腹に乗った。それから手荒く、僕の顔や体中を舐め回した。馬のようだった。幾つもの四肢が歓迎を込めた足取りで僕の元に集まってきた。馬ではないもの、肉食動物も交じっているのかもしれない。けれども、敵意を持ったものはいないのだ。みなはそれぞれに祝福の鼻を僕の顔に近づけ、喜びの舌で僕の全身を舐めた。動物たちはみんな優しかった。「みんな。優しい」

posted by 望光憂輔 at 18:23| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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