2011年11月29日

ポップコーン・レース

「どっかで見た顔だな」と彼らの中の一人は言ったけど、僕は彼らの中の誰も知らなかった。(僕の名前を知ったらきっと驚くだろう)彼らは何を求めて僕の周りに集まってきたのだろう。逃げることは小さな自尊心が許さなかった。けれども、よくみると彼らはみんな僕よりも背が低く、大勢で派手な格好をしているとしてもそう恐れるほどのことでもないとわかった。そろそろ行こうと誰かが言って、みんなは動き出した。音楽が流れスタジアムの中央にダンサーが入場してきた。さっきまで僕の目の前に立っていた彼らだった。その時よりも彼らは大きく見えた。躍動感あふれる踊りを途中まで見て、僕は歩き出した。ゲート前で、足を止めて種々のポスターを眺め、再び歩き始めた。

「ブーン」と声を出して車の真似をする男に追いついて、僕も「ブーン」と声を出して車になった。勇気を出してそうなってみると悪くなかった。他人の目を気にしさえしなければ、楽しみ方はもっと広がってゆくものだった。一瞬驚いた様子だった彼も、すぐに良きライバルの登場を歓迎して「ブーン」と言って加速した。「ブーン」僕も負けずに加速して、通行人を追い越しながら先を争った。まともな勝負は分が悪いと見たのか、突然彼は懐から塩を出して投げつけてきた。塩を浴びた僕の車は空回りして思うように進めない。そこで僕は考えて、懐から電子レンジを作り出すと、そこからすかさずポップコーンを作り出した。そうなると今度は塩がうまい具合に味付けに役立った。これには彼も面食らった様子で、「キーン」と言ってブレーキをかけたのだった。

 近道はついに見つけられず、マップの端まで歩いてきてしまった。ビルの入口で男は待ってくれていて、そこで僕はリュックを置いていくことにした。エレベーターを降りて、歩き出すと置いてきたはずのリュックのチャックを閉める僕がいて、自分でも驚いた。みんな無地のスーツを着ていたが、僕は微妙にストライプが入っているので大丈夫だろうか、と心配していると用心棒のようなおじさんが派手なストライプの入った緑スーツを着ていたので、僕は胸を張ってテーブルについた。葬儀は10分で終わり、帰りにお菓子をもらった。

「全勝だな」と誰かが言った。負けた感じはしていなかったが、そこまでとは思っていなかった。「優勝だな」と誰かが言った。まさか優勝するなんて思ってもみなかった。一つも負けていないのだから、優勝するのも当然の権利だ。「気合なんだよ。こういうのは」と誰かが言った。確かに、気持ちが入っているのと入っていないのとでは技術以上に結果に差を与えることがある。ホワイトボードの星取表を見ながら、僕は自分たちの順位を確かめた。僕たちは二年で優勝だった。

 階段を素通りして、次に下りる機会を窺った。次の階段も見送ってしまい、もう階段はなくなった。草が生い茂る階段も何もないところから、僕は駆け下りた。頭から先に落ちてしまいそうなところを何とか先に足を出して、駆け下りた。それから校庭を駆けた。まだ、体力があり余っていたのだった。無人の壇上に、優勝カップが天を指して輝いていた。僕たちの優勝カップだ。表彰式など開かれなくても、栄光は、僕たちの手の中にあるのだ。優勝カップに別れを告げて階段を駆け上がった。四階までたどり着いて教室のドアを開けると、先生は振り向いて、その他の者は前を向いたままだったが、みんな知らない人だったのでそのままドアを閉じた。注意深く中の様子を観察しながら、僕は正しい教室を探して歩いた。舞台の向こう、幕を開くと演劇的な女たちの姿が見え、決定的に行き過ぎたことを悟って引き返した。墨の匂いのする少人数の教室の中の一人を呼んだ。「ねえ」彼女はすぐにやってきて、話を聞いてくれた。「何をしているの?」「習字」予想通りの答だった。「向こうは?」向こうの教室を指して訊ねた。「先生は誰?」彼女は指を折りながら、「藤田、門田、脇田、森田よ」と教えてくれた。「全部タが付くんだね」奇妙な一致にときめいて歩き出した。ポップコーンの弾けるような音が、どこかの教室から聞こえてきた。


posted by 望光憂輔 at 23:51| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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