2011年12月15日

殴ってもいいの

 レスキュー隊の到着を待ちながら校庭の上で先生たちはしらばっくれて座っていた。「素人が口を出しやがって」「ああした方が面白いとか、すぐ勝手なことを言い出すからな」参加者の意見の海に耐えられなくなって指導を下りたのだった。「おまえがやれっていうんだ」水泳競技が中断されている間、イルカのセルフショーで間がつながれていたがいよいよレスキュー隊が到着し、指導が受け渡される。「太郎さんだ!」キャップを被って、プールの方へ歩く太郎さんの姿が見えた。イルカたちは飛び跳ねるのをやめておとなしくなった。突然、僕の名前が呼ばれ参加種目はサッカーだと思い込んでいたので驚いた。太郎さんの銃声によって、みんながスタート台から飛び込む。何人かの選手がフライングしてやり直しとなる。もう一度仕切りなおして始めるが、やはり何人かの選手がフライングとなる。失格にすればいいのにと思うが、ここではそういうルールはなかった。太郎さんが厳しい声で注意するが、フライングする選手は跡を絶たない。真っ先に飛び込んだ選手が10メートル泳いだところで審判がフライングを告げる。首をひねりながら戻ろうとする選手を、太郎さんが制止した。「そこから!」そこからでいいと言った。位置を変えずに再スタートとなった。けれども、次のスタートもフライングで審判がストップをかけた。「そのまま!」今度も太郎さんの指示で戻ることが省略される。「そのままの位置で……」太郎さんが、言葉を継ぎ足す間に、何人かの選手が既に水面下で動き出し、ターンして折り返していたが、僕はまだスタート付近でもたもたとしていた。競技はとにかく1位で入った者が1位になった。

 先生の指示でゲームが始まろうとしていたが、僕は海パンの中にマヨネーズを入れられる守備側だった。「殴ってもいいんですか?」どう立ち向かうべきかわからず僕は極端な例を挙げて質問した。どうやら殴ってはいけないようだ。「蹴ってもいいんですか?」それならと僕は食い下がった。一方的にやられたくはなかったのだ。「本当はサッカーをやるつもりだったんです」大爆笑が起きてもおかしくはなかったが、みんな気の抜けた炭酸水のようだった。ゲームが始まるといきなり示し合わせた2人組によって挟まれたが、僕は殴り真似と蹴り真似を駆使して2人の間をすり抜けた。窓から飛び出してベランダを一周、目をくらましてから教室に戻ると素早く中央本棚の上に駆け上がり、そこで息を潜める。そのままじっと時間切れになるのを待って、涼しい顔で下りた。顔にマヨネーズをつけた者や、全身がマヨネーズだらけになっている者、みんな少なからず傷を負っており、無傷で済んだのは僕だけだった。先生が成績優秀者に対して金一封を配ると当然のように僕にもそれは回ってきた。一通り配った後で、最後にもう一枚残った封筒を持ったまま先生は迷うように辺りを見渡し、一度自分の懐に納めかけてからもう一度取り出すと今度は真っ直ぐ僕の方に突き出して、軽く頭を下げた。その瞬間クラス中からわっと歓声が沸いた。

 大勢の名前があるような暗示にかけられて、先輩でも殴れるという欄に丸をつけてしまった。その瞬間、みやさこさんはにやりと笑い、今から早速実行しなければならないと言い、僕はそれでそれが罠だったことを悟ったがまだ下を向かなかった。「まだサインしていない!」今日、僕はとことん冴えているのだった。それでその話は一蹴した。警察が到着するのでみんな席に着くようにと放送が入る。校内で誰の者かわからない五千円札が見つかったのでその持ち主を見つけ出すというのだ。
「僕はもういいや」余裕の顔をして、廊下の方を見ていた。新しく手に入れるゲームのことで、頭の中はいっぱいだった。

posted by 望光憂輔 at 22:25| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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