2010年09月17日

現実世界

ほんの日常会話が

誰かを傷つけているなんて

夢にも思わないことでしょう

夢にも思わない出来事が

あちらこちらで起きているのです

posted by 望光憂輔 at 22:20| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

対比の雨

 あのおじいさんが患者なのだ。明日手術をするのだ。何事かを相談する会話が聞こえてくる。よく聞こえてくる。父は時折咳き込むばかりだ。
 誰も来なければよかったのに。会話なんてなければよかったのに。

「お茶を入れましょう」
 カーテンの向こう側にお茶を持った人がやって来たのだ。もう、こちらには関係のない人だ。

「お茶はいいでしょう」
 おじいさんは言った。
 何気ない会話がいくらでも聞こえてきては、とめどなく僕を追い詰めていくのはどうしてだろう。何気ない会話がどうしてだろう。
 母が帰ってくる。
 泣いてはいけないと思う時に、どんどん涙があふれてくる時がある。どうして制御できないのだろう。

 薬局にはなかったと言う。
「歩いてみる」
 他の薬局まで歩くと言って、母はもう一度出て行った。

 父の喉が苦しそうだ。猫のように唸り始めた。うがいをしながら歌う時のようになった。
 普通の会話が漏れてくるくらいなら、粗末な椅子の部屋でもない部屋の方がよかった。奇妙な歌や婆さんの泣き言ばかりが聞こえてくるあの場所に、戻して欲しかった。また、対比が角度のないところから打ちつけられて、僕の正気を引き裂いてしまう。
 父は、どれだけわかっているのだろう。わかりようもなく、伝えようもない。
 誰かの投げた紙飛行機が山を目指して飛んでいった。きっとあれは白い鳥なのだろう。

posted by 望光憂輔 at 21:37| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

若返り

「ここはどこ?」

「名前は?」

「お父さん、随分若くなったねえ」

 生年月日が、徐々におかしくなったそうだ。30歳になったり70歳になったりしたそうだ。間違えたと言っては笑ったという。ずっと間違え続けてくれればよかった。僕が知っているのは、間違えずに日付を答える父だけだった。父は間違えなかった。2ヵ月を遡り、間違える日々の間にもっと会えばよかった。僕が後悔していることと言えばずっとそのことだった。そして、同じくらいに、2ヵ月前の一日に、父と2人きりで会えたことに感謝もしている。随分と昔のことのようだ。
 今の父は、寝ているのが当たり前だ。眠り続けるのは当たり前だった。この部屋なら、僕は隣のベッドで眠ることもできる。

 パズルは幾つも解いたと母は言った。
「お父さんのことを思い出すとねえ」
 けれども、思い出した瞬間泣いてしまったと母は言った。
 母は、買い物に出かけていった。

posted by 望光憂輔 at 21:12| ソロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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