2011年12月29日

戦闘準備

 見たこともない大人が僕をちゃんづけにしたので少し驚き少しうれしかった。僕が気づかなかっただけで、どこかで何度か会ったことがあるのかもしれなかった。ホームで引き渡されて僕はおじいさんと2人になった。互いに何も話さなかった。中華料理屋の壁に張りついて団体客の中に紛れて入り、そのままエレベーターに乗って上がった。おじいさんは大きなベッドの真ん中に眠り、僕は余ったところで眠るけれど同じところで眠るのはどうも落ち着かず、それはおじいさんの顔のせいだと考えて向きを変えてみた。おじいさんの足を見ながら眠ってみることにした。目を閉じるとホームに立つ父の姿が見えた。父はひとりだった。誰かがクイズを出している。
「地球上のある生き物だけがそれを作ることができます」
 知っている。それは知っているよ。今、それが僕の首筋にいて動いている。蟹! 正解は蟹! けれども、もう1つの重要な事実、蟹は鋏を持っている。思い出すと目を開けられなくなった。それはまだ僕の首筋に留まっている。もしも……。それが凶暴な性格の持ち主で、最初は足の先の方を、徐々に胴体を辿って這い上がりついにその生命の最も弱い部分を見つけ出して、今まさに止めを刺す準備に入ったのだとしたら。一瞬のためらいが、生死を分かつのだ。僕は目を開ける。自分の首もろとも、それを払いのける。蟹はブーンと音を立てて飛んでゆく。「おじいさん! おじいさん!」けれども、ベッドで眠っているのは、今は猿だった。

「蟹が上ってきたよ!」
 一階の中華料理屋に報告に下りた。
「今の店長は俺だ!」
 新しい店長が言った。だから、もう借金は帳消しだと言った。捲り上げた腕にコガネムシが埋まっているのが見えた。
 校庭近くの自販機の前に留まっていた。コインを入れるとカプセルが落ち、中を開けると恥ずかしいものだったのでカプセルの中に戻した。もう一度コインを入れるとカプセルが落ち、中を開けるとまた恥ずかしいものだったので、またカプセルに戻した。三度目からは手に取っただけでそれが恥ずかしいものだとわかるようになり、開けずに取り出し口の中に戻した。無駄遣いだとはわかっていたけれど、自販機相手にすることといえば、コインを入れるくらいしかなかった。
「早いな」
 気がつくともう薄っすらと明るくなっていて、友達が立っていた。
「寝てないからな」
「試合なのに!」
 友達は明らかに怒っているようだった。取り出し口に詰まっている未開のカプセルを見つけたのか、それ以上は何も言わず、鞄を開けるとユニホームを投げつけた。背番号は後から持ってくると言った。僕はハリガネを全身に巻いて戦闘の準備をした。余分な部分を切断して、なるべく身軽に動けるように工夫して巻いた。
「試合に出たいぞ!」
「俺も出たいぞ!」
 互いに今日の健闘を誓い合うと、それに鴉も加わった。

posted by 望光憂輔 at 00:26| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月27日

青い光

 幻想曲か何かなんてピアノの下にハンガーをねじ込んだり本を積み上げたりする人にとっては愚問であったし、とにかく課題曲でないことは明白な指使いを追って、僕はまだ見知らぬ朝の街を歩いていたのだった。朝の光に似た黄色い色の駅まで来た。すっかりまいたと油断したのか、道は朝が色づき始めるにつれてゆっくりと明確な形を見せ始めて、やがてどこか見覚えのある風景が戻ってくる。階段の上に輝く文字群が黄色から桃色に変わる。どこにも入り込むことのできない話。月曜も火曜ももう埋まってしまった後だから、強いて言うなら木曜の夜のドラマに入れることにする。

 蛍光灯をこれから鬼退治に向かう侍のように背中に担いで店内を歩いた。歩く内に刀は生涯の伴侶を得たように強く輝き始め、店内の絨毯や墓石や弦楽器を照らし出した。その光に吸い寄せられて、夏の昆虫がついてきたがそのまま店を出た。50m歩き、歩道橋まで来たところで後ろから女が駆けてきた。「後でくるから」そう言って僕は110円を差し出した。「でも、そういうわけには……」計測しなければならないと店の女は主張した。僕は千円札を預けて、「後でもう一度くるから」と言った。ヨーグルトを買うために。女がしぶしぶと引き上げると僕は家路を急ぐために飛行体勢に入った。100m進み赤信号を飛び越えて、一層細い道に折れ曲がったところで、急に体が重くなった。ホラー映画のエキストラたちが空中にあふれているため、強い空気抵抗を受けてしまうのだった。毎年お盆が近づく頃になると、子供だましの映画作りに駆り出される魔物たちによって夜の空気はすっかり重くなる。

 家がある。その中には怖い人たちがいてそれは僕の敵で、僕は何かの目的でこの家を見張っている。夜だった。理由はわからないが(怒ったのかもしれない)僕は銃を撃って1人を殺した。(本当は犬だった)そして家の裏に回って走って逃げようとした。(なぜ明かりを撃たなかったのだろう?)しかしドアが開き、1人の男が追ってきたのだ。僕は咄嗟に伏せた。けれども、彼がライトを照らすとピタリと僕の顔へ(彼はいじめっ子Aだった)。僕は丘を駆け上がったが、背後から撃ってきた。僕は振り向くと怒りの叫びを上げて、懐中電灯を投げつけた。(なぜかその時既に僕は銃を持っていなかった)丘を駆け下りて、浅い川の中に飛び込んで身を隠した。夜明けが近かった。

 突然の雷鳴の後、雲の間から城が現れた。「久しぶりね」と母が言った。
「城へのルートは三つだったね」けれども、母は二つだと言う。確かに今は二つになったのかもしれない。目の前にある高層マンションを見上げながら、まだそれが山だった頃の話を母に聞かせる。
「お父さんね」若い日の父は、山を直線的に駆け上がり城まで登ったのだ。人工の光を目指して夏の昆虫たちが舞い上がる。その時、もう一度、雷鳴。

posted by 望光憂輔 at 23:49| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月15日

殴ってもいいの

 レスキュー隊の到着を待ちながら校庭の上で先生たちはしらばっくれて座っていた。「素人が口を出しやがって」「ああした方が面白いとか、すぐ勝手なことを言い出すからな」参加者の意見の海に耐えられなくなって指導を下りたのだった。「おまえがやれっていうんだ」水泳競技が中断されている間、イルカのセルフショーで間がつながれていたがいよいよレスキュー隊が到着し、指導が受け渡される。「太郎さんだ!」キャップを被って、プールの方へ歩く太郎さんの姿が見えた。イルカたちは飛び跳ねるのをやめておとなしくなった。突然、僕の名前が呼ばれ参加種目はサッカーだと思い込んでいたので驚いた。太郎さんの銃声によって、みんながスタート台から飛び込む。何人かの選手がフライングしてやり直しとなる。もう一度仕切りなおして始めるが、やはり何人かの選手がフライングとなる。失格にすればいいのにと思うが、ここではそういうルールはなかった。太郎さんが厳しい声で注意するが、フライングする選手は跡を絶たない。真っ先に飛び込んだ選手が10メートル泳いだところで審判がフライングを告げる。首をひねりながら戻ろうとする選手を、太郎さんが制止した。「そこから!」そこからでいいと言った。位置を変えずに再スタートとなった。けれども、次のスタートもフライングで審判がストップをかけた。「そのまま!」今度も太郎さんの指示で戻ることが省略される。「そのままの位置で……」太郎さんが、言葉を継ぎ足す間に、何人かの選手が既に水面下で動き出し、ターンして折り返していたが、僕はまだスタート付近でもたもたとしていた。競技はとにかく1位で入った者が1位になった。

 先生の指示でゲームが始まろうとしていたが、僕は海パンの中にマヨネーズを入れられる守備側だった。「殴ってもいいんですか?」どう立ち向かうべきかわからず僕は極端な例を挙げて質問した。どうやら殴ってはいけないようだ。「蹴ってもいいんですか?」それならと僕は食い下がった。一方的にやられたくはなかったのだ。「本当はサッカーをやるつもりだったんです」大爆笑が起きてもおかしくはなかったが、みんな気の抜けた炭酸水のようだった。ゲームが始まるといきなり示し合わせた2人組によって挟まれたが、僕は殴り真似と蹴り真似を駆使して2人の間をすり抜けた。窓から飛び出してベランダを一周、目をくらましてから教室に戻ると素早く中央本棚の上に駆け上がり、そこで息を潜める。そのままじっと時間切れになるのを待って、涼しい顔で下りた。顔にマヨネーズをつけた者や、全身がマヨネーズだらけになっている者、みんな少なからず傷を負っており、無傷で済んだのは僕だけだった。先生が成績優秀者に対して金一封を配ると当然のように僕にもそれは回ってきた。一通り配った後で、最後にもう一枚残った封筒を持ったまま先生は迷うように辺りを見渡し、一度自分の懐に納めかけてからもう一度取り出すと今度は真っ直ぐ僕の方に突き出して、軽く頭を下げた。その瞬間クラス中からわっと歓声が沸いた。

 大勢の名前があるような暗示にかけられて、先輩でも殴れるという欄に丸をつけてしまった。その瞬間、みやさこさんはにやりと笑い、今から早速実行しなければならないと言い、僕はそれでそれが罠だったことを悟ったがまだ下を向かなかった。「まだサインしていない!」今日、僕はとことん冴えているのだった。それでその話は一蹴した。警察が到着するのでみんな席に着くようにと放送が入る。校内で誰の者かわからない五千円札が見つかったのでその持ち主を見つけ出すというのだ。
「僕はもういいや」余裕の顔をして、廊下の方を見ていた。新しく手に入れるゲームのことで、頭の中はいっぱいだった。

posted by 望光憂輔 at 22:25| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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