2011年12月07日

JUDY & MARY

 おばあちゃんを送っていって、留守の間にコンビニを作った。おにぎりやお弁当が納品されて、早速品出しに追われる。「朝は豆腐でお腹がいっぱい」と姉が言った。「あの豆腐だけ?」と言うと姉は、もう一つ別の豆腐があるのよと言う。品出しのスタッフは足りているようなので、僕は他にやることはないかと店の中を巡回した。まだ納品箱に納まったままの品の中に三個セットではないでーんとした大きな豆腐があって、姉が食べたのはこの豆腐に違いなかった。玩具ルームには、人形や縫いぐるみやプラモデルが棚の中にぎっしりと詰まっていた。そのほとんどは兄が作った船や自動車やガンダムだった。熊の縫いぐるみを一つ取って、巡回に戻った。水の音に近づいて行くとそこはくつろぎの間で、石の上に座っているおじいさんの前を通り過ぎて奥へ進むとそこにはまた別のおばあさんが湯船に浮びくつろいでいた。くつろぎの間を抜けて、冷凍コーナーの横には細く暗い道があって、その先は行き止まりになっていたが、壁を押すと微かに揺れるような気がしたので更に強く押してみると先が開けた。そこは、おばあちゃんの部屋だった。取り壊したと思っていたのは間違いで、家の一部、無駄になっていた部分だけをコンビニに変えただけで元のおばあちゃんの部屋はちゃんと残っているのだった。応接間では、母が誰に飲ますとも知れないお茶の練習をしていた。入口がコンビニに隠れてしまった今、誰を招くというのだろう。でも、「みんなが入れるようにした方がいいよね」と僕は言った。それが父の常日頃の願いでもあったから。「暗証番号で入れるようにしたら?」

 トイレがなくなってしまったから、冷蔵庫の隅にでも放尿するつもりだったけれど、兄が「蕎麦を作ろう」と言うので、気を取り直してもう一度トイレを探すことに決めた。
「縄跳びの記録がおかしい」とキャンディさんが言った。僕と姉が跳んだ後でプリントした記録用紙の他に、もう一枚それとは違う記録が出されていて、紙の隅にはJUDY & MARYという謎の文字が残されているというのだ。間違えて二度出したということもなかったし、身に覚えのない記録だったし、それに加えてJUDY & MARYという謎の文字……。「わからない。わからない」姉も、腕を組んだまま動かなくなった。

 父の車でチャイムが鳴った。「何時?」と訊くと父は「わからない」と言うので、もう一度庭の上の木のベッドで眠ることにした。木の上にはマットの代わりに座布団が一枚だけあり、これがもう一枚あったら随分と助かるのだけれど、上にタオルケットを掛けても隙間風が入り込んですーすーとする。

 雨か……。今にも落ちそうな様子を見て父が呟いた。「新聞はどこだ?」今日の新聞が見当たらないとぶつぶつ言っている、父はそういえばもう亡くなっていることを思い出した。慌てて、「お父さん」と呼びかける。「お父さん、お父さん!」声を大きくしてみても、父は返事をしなかった。「おかしいな」そう言って新聞を探し続ける。新聞は兄が持っていったのかもしれない。
 病院からおばあちゃんをつれて、母が帰ってきた。「今日はたくさん跳べたよ」と言う母の手には、黒い縄跳びがある。
 テレビが壊れたので、僕は家を出て行くことにした。

posted by 望光憂輔 at 02:10| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月30日

新しいカード

 テーブルの上にカードを広げて終わったばかりの過去を再現していく。「もう一つの過去だけど」しんちゃんが言った。「後で場所を変えて他でやる?」時間外になってしまうので、もう全部は再現できそうもなかったのだ。類型的な形、推測できてしまう展開になったら手順を飛ばしてなるべく時間を省くようにした。「何か新しいカードが必要ね」皿に盛られた複数の野菜、キャベツやレタスやトマト、セロリ、パセリ、キュウリ、他にも紫色をした見たこともない野菜がある。「新しい感情が芽生えた時には」既存の言葉では足りず、例えば新しい恋を表すためには、まったく別の新しい言葉を作らなければならないとなっちゃんは言ったのだ。

 ラジオ体操が終わる。もうカードはいっぱいになってしまったので、次はデザインが変わることだろう。まぶしい陽射しを避けて屋内に入ると階段を上った。ちょうど歌人と新人が対談を始めたところで、僕は素知らぬ顔をしてその横を通り抜けると廊下の隅に置いてあった安楽椅子に座った。バスタオルを枕の代わりにして挟むととても良い心地である。こっそりと対談に耳を傾けながら、休んだ。

「もうへたばってるのか?」薄目を開けると班長が立っていた。今日の予定はもう終わりかと言って笑った。「僕は今終わったんです!」と反論すると、「みんなそうじゃないか」と言って一蹴された。「僕は昨日から眠っていないし」と付け足すと、「みんなそうじゃないか」と続けて返り蹴りにされる。「僕はただ少し言い訳したかっただけですから」と負け惜しみを言った。「だが、この子は好きだな」と横からこんじいさんが入ってきた。「なかなか意志が強いところがあってね」と言い、「ただ……」と続けた。「連絡してこないんだよ」と言って渋い顔になったので嫌な予感がする。「できるのにしてこないんだよ」と徐々に昔の話が始まり、執拗に礼儀作法について責め立てているのだった。こんなことなら、ただへたばっていると言われる方がましだ。まったく……。新しく話すことはないのか。もう何も言い返す気力もなく、顔を見るのも嫌になって僕は黙って靴を履いた。「やめるな……」出て行くところで、後ろから誰かが呟く声が聞こえた。やめる? やめるも何も……。その後に続く言葉は、何だろうと思いながら、歩き始めた。まぶしい陽射しが、足元にまで落ちて、爪先までもあたたかくなった。

posted by 望光憂輔 at 16:11| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月29日

ポップコーン・レース

「どっかで見た顔だな」と彼らの中の一人は言ったけど、僕は彼らの中の誰も知らなかった。(僕の名前を知ったらきっと驚くだろう)彼らは何を求めて僕の周りに集まってきたのだろう。逃げることは小さな自尊心が許さなかった。けれども、よくみると彼らはみんな僕よりも背が低く、大勢で派手な格好をしているとしてもそう恐れるほどのことでもないとわかった。そろそろ行こうと誰かが言って、みんなは動き出した。音楽が流れスタジアムの中央にダンサーが入場してきた。さっきまで僕の目の前に立っていた彼らだった。その時よりも彼らは大きく見えた。躍動感あふれる踊りを途中まで見て、僕は歩き出した。ゲート前で、足を止めて種々のポスターを眺め、再び歩き始めた。

「ブーン」と声を出して車の真似をする男に追いついて、僕も「ブーン」と声を出して車になった。勇気を出してそうなってみると悪くなかった。他人の目を気にしさえしなければ、楽しみ方はもっと広がってゆくものだった。一瞬驚いた様子だった彼も、すぐに良きライバルの登場を歓迎して「ブーン」と言って加速した。「ブーン」僕も負けずに加速して、通行人を追い越しながら先を争った。まともな勝負は分が悪いと見たのか、突然彼は懐から塩を出して投げつけてきた。塩を浴びた僕の車は空回りして思うように進めない。そこで僕は考えて、懐から電子レンジを作り出すと、そこからすかさずポップコーンを作り出した。そうなると今度は塩がうまい具合に味付けに役立った。これには彼も面食らった様子で、「キーン」と言ってブレーキをかけたのだった。

 近道はついに見つけられず、マップの端まで歩いてきてしまった。ビルの入口で男は待ってくれていて、そこで僕はリュックを置いていくことにした。エレベーターを降りて、歩き出すと置いてきたはずのリュックのチャックを閉める僕がいて、自分でも驚いた。みんな無地のスーツを着ていたが、僕は微妙にストライプが入っているので大丈夫だろうか、と心配していると用心棒のようなおじさんが派手なストライプの入った緑スーツを着ていたので、僕は胸を張ってテーブルについた。葬儀は10分で終わり、帰りにお菓子をもらった。

「全勝だな」と誰かが言った。負けた感じはしていなかったが、そこまでとは思っていなかった。「優勝だな」と誰かが言った。まさか優勝するなんて思ってもみなかった。一つも負けていないのだから、優勝するのも当然の権利だ。「気合なんだよ。こういうのは」と誰かが言った。確かに、気持ちが入っているのと入っていないのとでは技術以上に結果に差を与えることがある。ホワイトボードの星取表を見ながら、僕は自分たちの順位を確かめた。僕たちは二年で優勝だった。

 階段を素通りして、次に下りる機会を窺った。次の階段も見送ってしまい、もう階段はなくなった。草が生い茂る階段も何もないところから、僕は駆け下りた。頭から先に落ちてしまいそうなところを何とか先に足を出して、駆け下りた。それから校庭を駆けた。まだ、体力があり余っていたのだった。無人の壇上に、優勝カップが天を指して輝いていた。僕たちの優勝カップだ。表彰式など開かれなくても、栄光は、僕たちの手の中にあるのだ。優勝カップに別れを告げて階段を駆け上がった。四階までたどり着いて教室のドアを開けると、先生は振り向いて、その他の者は前を向いたままだったが、みんな知らない人だったのでそのままドアを閉じた。注意深く中の様子を観察しながら、僕は正しい教室を探して歩いた。舞台の向こう、幕を開くと演劇的な女たちの姿が見え、決定的に行き過ぎたことを悟って引き返した。墨の匂いのする少人数の教室の中の一人を呼んだ。「ねえ」彼女はすぐにやってきて、話を聞いてくれた。「何をしているの?」「習字」予想通りの答だった。「向こうは?」向こうの教室を指して訊ねた。「先生は誰?」彼女は指を折りながら、「藤田、門田、脇田、森田よ」と教えてくれた。「全部タが付くんだね」奇妙な一致にときめいて歩き出した。ポップコーンの弾けるような音が、どこかの教室から聞こえてきた。


posted by 望光憂輔 at 23:51| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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