2011年10月13日

バーベキュー

 少し離れた場所に車はゆっくりと停止した。
「さあ、食べてきなさい」
 降りるのは子供だけだった。僕は真っ先に駆け出していた。壁に吊られているのはショットガンではなく、銀色の鉄串に突き刺された肉や野菜だった。肉が三つ突き刺さった鉄串の一つに僕は手を伸ばした。口に含むと味はしなかったが、構わず一気に食べてしまった。鉄串を壁に突き刺した。続けてその隣の鉄串に手を伸ばした。それは肉が二つしかついてなく、前に来た誰かが肉の一つを食べたのかもしれなかったが構わず残りの二つを食べた。鉄串を壁に突き刺した。少し落ち着いた。テーブルの上に食塩があるのを見つけ、今度はそれを使うことにした。テーブルを挟んで反対側にある、肉と野菜の入り交じった鉄串を手にして食塩を振りかけて食べる。今度もまたおいしかった。エンジンの音が聞こえたので、僕は種類も見ないで壁の鉄串を一本抜き取って走り出した。母たちが、車で待っていた。
「早く!」
「一本、持ってきたよ」
 母に手渡した。僕が乗ると同時に車は急発進した。弟はもっと遠い場所に行っていて間に合わなかった。
「****は?」
 母は黙って頷くばかりだった。僕の持ってきた鉄串を膝の上で大事そうに握っている。

 弟と同じ名前に見えた。見間違いかもしれなかったが気になって画面を見続けていた。再び画面が当選者の発表に切り替わりその名前が現れた。身を乗り出して、一字一句を見逃さないようにしっかりと見た。それは弟と同じ名前だったのだ。どこにでもありそうな名前ではあったのだけれど。
「おめでとうございます! 見事特等に当選されました    さん」
 当選者たちが順に登場して喜びの声を上げている。いよいよ弟と同じ名前の当選者の登場となった。
「****さん。どうぞ。この度は当選おめでとうございます」
 弟の面影は一切なかった。いくら限りない歳月が流れていたとしても、無数の雨と骨とが僕らの間に突き刺さったとしても、それはあまりにもかけ離れている。別人だ。まったくの。
「運がよかったです!」
 運がよかったというだけで当選したという男は、スカートの裾を揺らしながら跳びはねた。


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2011年10月11日

冬の列車

 何かが鍵穴に差し込まれようとしている。僕でないものによって、ということは誰かが間違えているのだ。ドアノブを無理に揺さぶっている。早く間違えに気づけばいいのに。あなたは別の階の別の場所の別の部屋の別のドアと間違えているのだ。そのせいでほんの少し他人に誤解や恐怖を与えていることに気づいているだろうか。そろそろ気づいてくれると思うが。こちらから言う前にどうか自力で気づいてください。その方が何もなかったように終われるのだからその方がいいと僕は思います。また何かが鍵穴に無理に入ってこようとする。間違えたのが、場所などではなく鍵の方なのだというように何度も執拗に繰り返される実験、挑戦、そして失敗。どうしてそれは終わることがないのか。人間なら失敗と反省を併せ持っているものではないのか。もしかしたら、子供の時、生き別れになった猫が尋ねて来ているのかもしれない。

「誰ですか? すみません、誰なんですか?」
 答えは何もなかった。そうして何度もドアノブに働きかける内に、ドアは開いてしまった。母だった。
「遅くなった」
 肩から雪を払い落として、上着を脱いだ。
「今日はここに泊まろうか」
 どうしてここに泊まるのだろうか。けれども、もう決めている、あるいは決まっていることのようだった。続いて姉が入ってきた。
「まあ、二人一緒で」
 靴底についた雪を玄関で払い落とし、白い冷気をまとったまま上がりこんできた。
「あんたは帰るでしょう。今日は」
 今日は無理でしょうと母が言った。
「無理でもないけど……」
 姉は帰る腹のようだった。
「また来なさい」
 あらためてくるように母は言った。どこにくるのかはわからなかった。

 ブロックを連結させて姉と遊んだ。
「夜行列車だよ」
「もっとつなごう」
「こっちはひかりよ」
「じゃあこれは?」
「つなぎすぎたら走れなくなるわよ」
「飛ぶから平気だよ」
「大陸横断超特急よ」
「わあ! クジラみたい!」
「そんなこと言うもんじゃありません!」
 母が突然、子供の遊びを止めた。
「お父さんは、今クジラの中なのに」
 姉と僕は何も反論しなかったし、謝りもせずただ黙り込んだ。すべての列車は解体され元のブロックに戻った。玩具箱の中で次の旅を夢見ながら。


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2011年10月07日

墓場の決戦

 シビアなパスをくれと彼は言ったけれど通過してしまうことが怖くて弱いパスしか出せなかった。「取られてしまう!」もっと速くていいと言いながら恐ろしく速いパスを出してくる。少しでも気を抜けば足元をすり抜けていく。そして敵に奪われてしまう。今のところ敵は一人しか見えず、そいつはゴール前を守っていた。もう一人の敵はどこかに隠れているのだろうか、今のところ姿を見せなかった。岩陰にでも隠れているのかもしれない。今度は意識して強いパスを出した。彼は余裕でそれに追いつくと、もっと速いパスを出せと言った。僕は弱かった。自分の強さと彼の言う強さとでは雲泥の差があるに違いなかった。敵の目の前まで迫るとやはり彼はシュートのように破壊力を伴った強いパスを出した。僕は必死に駆け寄ってダイレクトでシュートを打った。
 敵は大きく息を吹いて僕を吹き飛ばす。みるみるゴールが小さくなっていった。強風が収まるまで座布団を被って耐えた。「かーっ」味方の悔しがる声が遥か彼方から聞こえる。僕が遠くへ飛ばされ一回休みをしている間、彼は一人で攻め込んでいた。連続シュートを浴びせながら敵の呼吸を止めていた。
「今行くぞ!」僕は急いで応援に向かった。ようやく近づくとゴール前は嵐になっていた。落ち葉やペットボトル、紙くずや手袋、二人の男が浮かびながら混沌としているのが見えた。

「ふわー」
 敵の一息で僕は再び飛ばされてしまった。遥か彼方、嵐の中で星星が煌くのが見える。星星の中から何かが突き抜けてこちらに向かってくるのが見えた。あるいは、上空に上がってゆくのか、遠ざかってゆくのかもしれない。けれども、それは徐々に大きくなり唸り声を上げている。蹴り返さなければならない。いつまでも彼一人に戦わせておくわけにはいかなかった。軌道が高い。僕は足をあきらめヘディングで対処することに決めた。来る、来る、来る。ボールの周りに何かがまとわりついている、あれは、何だ。生首。それは生首だった。僕は一瞬首を引いてしまいヘディングは空振りに終わった。ボールは墓場の方まで飛んで行くと、炎を蓄えて戻ってきた。「パスだ!」彼の声が聞こえ、僕はボールを出迎えた。今度は逃げないように、身を引かないように、たとえ生首であっても負けてはならない。シビアなパスを彼に送るのだ。その時、岩陰から敵の一人が現れて炎の争奪戦に加わったことで数的に互角になった。今から本当の勝負が始まるのだ。

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2011年10月06日

朝は朝だけ

 ゴミ捨て場のような床には紙くずやペットボトルが散乱していた。誰かが最初にそれをして誰かがそれの真似をして、最初はそんなじゃなかったのに、気がつくとゴミ捨て場のようになっている。一度ゴミ捨て場のようになってしまえば、そこから抜け出すことは簡単ではない。それはもう本当のゴミ捨て場と区別がつかず、中には本当にゴミ捨て場と思っている人さえいるのだ。最初はこうではなかった。その最初の悪が生まれる瞬間に、誰かがそれを止められれば良かった。

「すごい数の募金ですね」
 カウンターの奥で女は笑っている。
「いいえ。拾ってきたんです。僕が」
 声の大きないつものお客さんがやってきた。
「A1ってわかるかな?」
 早口で大きな声で言う。僕はコピー用紙を思い浮かべる。
「紙ではないよ。肉の種類なんだけどね」
「すきやき編集は朝はできないんですよ」
 朝から肉は無理な相談だった。けれども、誰かがチケットを買う音がする。僕はチケットを朝モードに切り替えることを忘れていたことを思い出し、慌てて走り出した。もう遅かった。
「朝は朝だけなんです」
 遅かったけれど謝った。僕の声が聞こえないように、男は続けてコインを投入して、またしても夜を引き出そうとしている。
「朝は朝しかないんです」
 もう一度、今度は少し声を大きくして言った。
「なんだと?」
 男はいきなり僕の顎を掴んだ。昔、そのような技を使っていたことを思い出した。ずっと昔だった。


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2011年10月05日

ダイブ

 寝そべって眺めていると座長が僕を呼んだ。誰かが鳴らしたクラッカーが頭の上から降ってきて絡みつくのを引きずりながら舞台へと上がった。舞台に上がると早速幕が下りて、僕は当面帰れない身の上となってしまう。お芝居のための小道具を裏世界から運ぶのが僕たちに割り当てられた仕事で、朝、鳥が鳴く頃の時間から夕方、シチューが煮詰まるまでの間毎日身を粉にして働かなければならなかった。僕は目覚ましのベルを鳴らしてみんなを起こすことをためらった。突然の雷雨のようなやり方は、疲れ切った体には酷なやり方だったから。音楽を流し、徐々に音量を上げていく。季節が徐々に自分の色を回復させてゆくような穏やかなやり方で、みんなに朝を気づかせてあげたかったのだ。僕はケースを開けた。けれども、ケースの中の僕の大好きなジャニスはどこか行方不明になっているのだった。ケースの中は、空っぽたった。
「何度も取りに行かせやがって」
 もう高さには慣れてしまったと先輩は言った。通いなれた道だからもう梯子などなくても下りていけると言った。けれども、身を乗り出した瞬間、無理だと思った。僕は身を引いて姿勢を低くした。
「梯子なんて使ってられない」
 先輩は本当に梯子を使わなかった。平らな場所を歩くように垂直な高層ロッカーに向け歩き出した。先輩の手は、静かに宙を掴みながら、遥かな下方へと落ちてゆく。やがて、海が穏やかに先輩の体を包み込み、何年ぶりかに幕が開いた。波のように拍手が沸いた。

 審査員がノートに書かれた名前をチェックしている。
「最も奇抜なダンスを!」
 プラットホームでは、誰もがそれを目指して踊っていた。知らないふりをして逆に歩いて回送車両に乗り込んだ。
 丘の上にその墓があった。一段低いところにあるBコートから魚を誘うようにして何度もクロスが上がってくる。危ない、まだ、危ない。最も安定した軌道の時を待ってから合わせよう。関心がない様を装いながら僕はその時を待っている。けれども、同時に僕はわかっていた。失敗しても大丈夫……。ここは幕の内側の出来事なのだから。もう少し、これじゃない。もう少し、そう、もう少しだ。きた。これを僕は待っていた。
 早かった。僕は巻いてきたクロスに合わせられず空中分解して、蝶になった。
 蝶になって、戻ってきた。プラットホームの上のダンスはすっかり終わっているようだった。審査員の忘れていったノートがベンチの上で開いていた。僕は、元自分だった名前の上に留まった。2つ上の名前の横に二重丸が記してあった。彼とは何度か口を利いたことがある。


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雪の文字

 小さな声は雪の一片で、僕はそれらをかき集めてアイとエルとを作ったけれど、すぐに雪は翼を畳んで、細々とした雨に変わっていったから、計画は頓挫してしまった。せっかくできたアイとエルさえも、雪でないものに触れられて駄目になってゆく。どうしてもっとチャンスをくれないのだ。
 たくさん泣いたから、もうしばらくは平気のはずだった。涙を瓶に詰めて、時計代わりにしていた。けれども、誰かが底に穴を開けて、時間を早めてしまった。零れ落ちる雨は、アイとエルをすっかり溶かしてしまう。そして、空洞の中には、またかなしみが入り込もうとするのだ。雨よ、包め。何も持ち帰れない、僕を包め。

 自転車を、父の入り込む隙間を残して止めた。できあがっていたアイとエルの形を、もう一度思うと声が出なかった。
「駄目だったかね」
 湯気の向こうで、母の声がした。何でも知っているようで恐ろしくて、僕は舞台の上から転げ落ちそうになった。

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2011年10月04日

子供スクール

 18時のバスでひとり帰りたかったのに、みんな一緒に帰ろうよという意見に流されてしまった。そのせいでみんなに発表会まで見られるはめになってしまったのだ。手足を器用に動かして踊る人たちの中に加わることはできず、僕は最初からなるべく目立たないように一番端っこの場所にいたのだ。白線の上にボールを置いて、それをゆっくりと足で転がして行く。これをダンスと認めてもらうつもりなどないが、僕にできるのはその程度なのだから、できない僕にどうしてもやれというのはそちら側の方なのだから、強く責められるような覚えはないのだった。目立とうとしてしているのではない。これが最新のやり方なのだと主張するつもりなどまるでない。散発的に、小さな笑い声が聞こえるくらいで、特にどうということはない。無事に時間だけ過ぎて終わればいい。僕が罰を受けるということになっても、僕と一緒の時を耐えたこのボールのことは、どうか悪く言わないでください。「子供だけでは帰せません」だから、こういうことになったのだった。

 出発まではまだ時間がありすぎて、ジュースを冷やす冷蔵庫を貸して欲しかった。無人の学校のトイレのスリッパは昼休みのように歪んでいた。尿を出しているとおじいさんが入ってきて電気を消してしまった。窓からの明かりで充分に用は足りたので、特に文句も言わなかった。両足の付け根から長引いた緊張がとめどなく抜け落ちてゆく間に、今度は知らない子供が入ってきた。

「荷物取って来ます!」
「はい!」
 勢いに負けて、意味のない返事をしてしまう。この世に何か忘れ物でもしたのだろうか。
 時間が余ったのでおみやげを買おうと思った。
「さっきのところで買いなさい」
 母が言う。けれども、お菓子は嫌だったのだ。
「中華を詰める」
 頑なに僕は言い張る。大人たちは輪になって僕の小さな声をなきものにしようとする。

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2011年10月03日

コースアウト


「こちらでは猫の方はお断りしております」

 僕は猫を店の人に預けると自転車で夜の中に走り出した。2人の警官の間をすり抜ける時、僕はシートベルトが気になって、けれどもすぐにそれは思い過ごしあるいは小さな思い違いなのだと気がついて安心したから、突然に頭が冴えてライトを点灯させたのだった。そうして3人目の警官の傍を通り抜ける時は、目一杯近づいて、接触するほどに近づいていって、警官のすぐ前に落ちていた石ころを蹴飛ばしてやった。クリア!
 不穏な夜の空気が白いマンションから漏れ出してきて、僕らがするべきことは、一刻も早くこの場所を離れること。けれども、いったいどこまで逃げれば安全な場所があるというのか。互いに傷つけ合うばかりの激しいレースが一時落ち着くのは、信号待ちをする時くらいで、けれどもその時でさえも背後から無言の圧力が語りかけてくるのを僕は感じ取っている。「抜くなよ」「おまえは、抜くなよ」ありもしないアクセルを踏み込んで、逃れられないレースに僕も加わる。

 おじいさんは、どこまでも車線をはみ出してコースアウトした。そこは見渡す限りの砂漠だった。
「どうせ外れるなら思い切り、ねえ、おばあさん」
「そうねえ、おじいさん。18時の汽車には間に合うかしら」

posted by 望光憂輔 at 16:28| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月30日

猫と五千円札

 別館への廊下を歩いていると駐車場に出てしまった。五千円札を抱いた猫の向こうに海が開けていた。小さい猫だからといって、我先に奪って行くような、そんな奴は信じられない、と彼は言った。
「そうだね」
 何気なく出た相槌が、深い共感を帯びて自分の耳に響いた。猫は札を抱いたまま安心して眠っている。どこでもらったのか、誰から預かっているのか……。
「僕は行くよ」
 彼は行ってしまった。湖の色が黄色から緑色に変わり彼方から紙の船が近づいてくる。通り過ぎる人は、誰も猫に関心を示さずに通り過ぎた。けれども、そよ風に撫でられて猫は寝返りを打った。五千円札はまだ猫のすぐ傍にある。

「昼はどうする?」
 少女の声が聞こえ、同時に、そんな奴は信じられないという彼の声が再び聞こえてきた。風が徐々に猫と札との距離を離し始めていた。もうすぐ誰かが目に留めてしまうだろう。悪意のない風が、誰かに悪意を吹きかけるのだ。
 船から男が降りてきて、彼女に追いついた。彼女の質問は、父に向けられたものに違いない。
 一台のバスが着いて、旅行途中の子供たちが降りてくると、猫の周りを取り囲んだ。猫は驚いて目を覚ます。自分の手の中にあるべき何かを探して振り返るけれど、そこにいるのは白い息を吐いて、短い言葉を操る子供たちばかりだった。「かわいい!」「まだ子供よ」

 今落ちたボタンを拾うようにして五千円札を手にすると、僕は封筒に入れた。
「キミの恋人に返さないと」
「あれはクジラよ」
 猫は、驚いたように言った。クジラとはどういう意味だろうか。僕は猫を抱いて、レストランへと歩き始めた。


posted by 望光憂輔 at 01:39| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月29日

無限コーナー

 靴紐を何度も結び直すのを審判が急き立てているが、それでも彼はまだ水分を補給する余裕さえあった。どうせまだ蹴らないのだろうと僕らはフェンスの外でまだ夏休みの思い出話をしていた。あの頃は、終わることが来ようだなんて誰も夢にも思わなかったけれど、こうして終わることになってみるともう一度最初から巻き戻してやり直してみたいものだ。最もよかったのは、夏休みに入る前の、まだ夏休みを楽しみにしていた頃だった。まだ始まってもいない、終わりに向かうことも決してない夏休みの原型の中に、本当の安らぎはあったのだ。コーナーキックは、フェンスに当たってやり直しになる。もう一度、もう一度。

 七度目のコーナーキックが宙を舞う頃、僕たちはライン際を回って、外野の守備へと向かった。
「ペンを持ってる?」
 互いに装備を確認し合った。新しい課題が見つかった時のために、僕らは常に筆記用具を身につけていたのだ。小さなノートから伸びた白い紐が、ペンの後ろにくっついて自由に伸びる様を彼は自慢げにこちらに見せつけた。
「考えただろ」
 逃げないようにと言った。どんな打球を追いかけて、走り抜けようが、高く飛び跳ねようが、ペンがノートと離れ離れにならないように……。低めに集めたエースの投球は、いかなる打球も外野へと運ばせなかった。陽だまりの中を悠々と横切っていくのは、小さな猫だった。


posted by 望光憂輔 at 02:05| 夢まち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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